その56 血圧の話(高血圧編)
寒い季節になると、血圧が高いと受診する人が増えます。令和元年厚労省国民健康・栄養調査結果によると、収縮期が140mmHg以上の高血圧は、男性で29.9%女性で24.9%であり、年々減少しています。

血圧は文字通り「血管にかかる圧力」です。血圧は血管の弾力性(硬さ)、血液量、心臓の収縮力で決まります。血圧120/70 mmHgと言えば、心臓が縮むとき時(収縮期)の圧力が120 mmHg、心臓が膨らんだ時(拡張期)の圧力が70 mmHgということです。mmHgとは水銀柱を上げる高さで、1気圧では760 mmでので、70 mmHgは0.1気圧ぐらいでしょうか。

血圧は年齢とともに高くなります。男性は女性と比較して血圧は高い傾向にありますが、女性は更年期(45‐55歳)で急に高くなるので注意が必要です。年齢と血圧の目安を表にまとめてみました*。



高血圧症の9割程度は「本態性高血圧(essential hypertension)」と呼ばれ、原因不明です。高血圧の原因疾患があるものを「2次性高血圧(secondery hypertension)」といい、腎臓病、ホルモン異常などがあります。若い女性で血圧が高い場合、甲状腺や副腎のホルモン異常(アルドステロン症)などがあり、ホルモンを調節する治療によって血圧が正常になります。

血管はゴムホースと同じで、使わないと硬くなります。運動しない人は血管が伸び縮みしないので硬くなります。メタボの人は血液量が多いので血管にかかる圧力が高くなります。また、緊張すると血管が縮むので、ストレスの多い人の血圧は高くなります。食事で気をつけることは減塩(6g以下)、カルシム、カリウム(緑の野菜)摂取です。

米国の100万人以上のメタ研究では、115/75 mmHgを基準として、収縮期が20 mmHg上がると又は拡張期が10 mmHg上がる毎に心血管疾患(心筋梗塞や脳梗塞)の死亡率が2倍になるということがわかっています**。

診察室で血圧が高くなる白衣高血圧の人の予後は、正常血圧の人の予後と変わらないことがわかっています。それとは逆に診察室では低く、普段高い人は「仮面高血圧」といわれ、正常血圧者より長期予後が悪くなるといわれています。

血圧を下げるためには、①運動(息の上がる運動)②血液量を下げる(減量、減塩) ③リラックスを心がけることが有用です。特に減量は大切で、適正体重にするだけで血圧が正常化する人がいます。

高血圧の定義は140/90 mmHg以上ですので、健康診断で高血圧を指摘され、①~③を半年程度行っても改善が見られない場合は薬物療法の適応になります。治療の目標(降圧目標)は,75歳未満で130 /80 mmHg(家庭血圧 125/75 mmHg)、75歳以上で135/85 mmHg (同130/80 mmHg)です***。

よく「一旦血圧の薬を飲み始めたら一生服用しないといけない」などと心配する人がいますが、米国の教科書には「80歳以上は治療目標の例外(possible exceptions totherapeutic target of <130/80 mmHg)」と書かれています。65歳以上では降圧薬による低血圧がめまいや失神の原因となるので、そのような時も中止します。

最近の降圧薬は副作用が少なくなっていますし、境界型の血圧では急に高くなることがあるので、高血圧の人は迷わず服用するようにしましょう。

以上です。

*エリクソンの「心理社会的発達理論」で提唱されている「8つの発達段階」参考
** Harrison’s Principles of Internal Medicine, 21st. ed.
***高血圧治療ガイドライン 2019
2023.12.19 14:35 | pmlink.png 固定リンク | folder.png 健康一口メモ

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