その30  ぼんやり(unfocus)のススメ
10月1日から緊急事態宣言が解除され、新型コロナの第5波も収まりつつあります。通勤電車の混み具合が増してきたように感じます。座って寝ている人もいますが、起きている人はほとんど本を読んだりスマホを見ています。

今日のテーマは、ぼんやり(unfocus)の勧めです。

2001年に米国の権威ある医学誌に、Default Brain Network(既定の脳内ネットワーク:DBN)という概念*が発表されました。DBNは、車のエンジンで言えばアイドリングのような状態で、アクセルを踏んでいない時でも(集中していない時でも)静かに働いている、潜在的な脳の機能と言えます。車はずっとアクセルを踏み続けていると、エンジンが熱くなりすぎて、ピストンとシリンダーが溶けて動かなくなる「焼け付き(オーバーヒート)」を起こしてしまいます。

つまり、過度に集中しすぎると脳がオーバーヒートを起こし、高次脳機能が一時的に低下してしまうのです。高次脳機能とは、注意、記憶、学習、計画遂行(てきぱきと仕事をこなすこと)、感情などを指します。低次脳機能という用語はありませんが、視覚野、聴覚野、運動野、知覚野という脳の基本的領域が複雑に連絡(連合野)し合い、高次脳機能を形成しています**。

一方でDBNは、脳内に保存されている情報をスキャンする状態であるため、思わぬアイデアが閃いたり、環境変化に対応しやすくなる、考えが柔軟になることがわかっています。集中が長時間にわたると、DBNが働かず、他人との柔軟な交流が図れなくなります。集中しない時間(ぼんやり時間)が大切なのです。ぼんやりすることで心が柔軟(psychological flexibility)になり、いわば精神的なストレッチと言ってもいいでしょう。

DBNは、次のような時に活性化すると言われています。公園をぶらぶら歩く、芝生に寝っ転がって空を眺める、編み物、ガーデニングにいそしむ、自分の過去の思い出に浸ったり、将来の夢や恋人を想ったりする時などです。過去のあらゆる情報が統合されて、思考の幅が広がります。同時に他人の気持ちを汲み取りやすくなり、組織をまとめるにも役立ちます。

実際にアスリートはパフォーマンスを発揮するために、視線をunfocusすることが有用と言われています***。一点に集中するような視線は、首の筋肉を硬直させ、体の動くを妨げます。武道の教えでも、構えるときは相手を含めて周囲の風景全体を捉えるようにと習います。相手を睨みつけるような視線は、反射神経を鈍らせるからです。

長時間PCのモニターに集中している毎日ですが、たまにはぼんやり時間を過ごしてみてはいかがでしょうか。

と言いつつ、満員電車の中でこの原稿を書いていますw。

* A default mode of brain function. Proc Natl Acad Sci U S A. 2001 https://doi.org/10.1073/pnas.98.2.676

** 高次脳機能 平成帝京大学 臨床心理学研究科 中島恵子 https://www.normanet.ne.jp/~RPA/index2_1.html

*** 理学療法士 中野崇氏 https://jarta.jp/about/trainingtheory/#c
2021.10.07 19:42 | pmlink.png 固定リンク | folder.png 健康一口メモ

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