更年期症候群のホルモン補充療法
更年期(45歳から55歳)では、女性ホルモン(エストロゲン)の減少により、様々な症状が現れます。


  • ホットフラッシュ

  • 皮膚や腟の乾燥

  • 関節の痛み

  • 筋肉量や骨量の低下

  • 関節痛

  • 手足末端の冷え

  • 頭痛

  • 気分の落ち込み


などが有名な症状です。

ホルモン補充療法(HRT:Hormone Replacement Therapy)は、減少したエストロゲンを補うことで、上記の症状を緩和するものです。若い女性が悩む月経困難症で処方されるピルも広義のHRTですが、更年期症状に対するHRTでは、エストロゲンの力価(薬の強さ)がピルの4分の1程度であり、エストロゲンの副作用を最小限にします。

エストロゲンの副作用として、高血圧、むくみ、血栓、乳がん、子宮内体がんが知られています。そのため、HRTの禁忌(きんき:治療が認められない)は、エストロゲン依存性悪性腫瘍(乳がん、子宮体がん)と血栓症(脳梗塞、心筋梗塞など)の既往がある人ですが、ピルのように高度の高血圧、糖尿病、前兆のある片頭痛や喫煙者の禁忌記載はありません。

子宮切除後のHRTではエストロゲンのみ補充(E単独療法)しますが、子宮がある方では子宮内膜増殖を抑え子宮体がんのリスクを抑えるため、エストロゲンに黄体ホルモン(プロゲステロン)を併用(E+P療法)します。

当院では、半年以内の健診で乳がんや子宮体がんが否定されている方で、上記の禁忌事項の当てはまらない方には、メノエイドコンビパッチ(E+P剤)を処方しています。E+P剤のでデメリットはE単独剤に比べて高価(3割負担でE+P剤は月1000円、E単独剤は月300円)なことです。子宮切除後でもE+P剤を使用することは問題ありません。

子宮内膜症や月経困難症で使用される合成プロゲステロン(ジェノゲスト:P単剤療法)はエストロゲンが含まれていないので、更年期症候群のHRTには無効です。

1991年に行われた閉経10年以内の女性27000人に対して行われた大規模臨床試験では、HRTが全死亡率、冠動脈疾患、骨粗鬆症、認知症の危険性を有意に減少させたことが報告されています。

診察室では血圧測定、身体診察(特に下肢静脈瘤やむくみの確認)、血液検査(肝機能、糖尿病、血栓症の除外)を行います。腰の周りにシールを週に2回貼っていただくだけです。最初は1ヶ月分8枚処方します。症状が安定すれば2ヶ月分まとめて処方します。

上記の症状が気になる方は、ぜひご相談ください。

Women's Health Initiative (WHI)女性の健康構想(米国衛生研究所1991)
2022.10.27 16:12 | pmlink.png 固定リンク | folder.png 診断治療
新型コロナ・インフル同時流行対策タスクフォース
政府は10月13日、新型コロナ・インフル同時流行対策タスクフォースを立ち上げ、今冬の発熱患者への対応方針を取りまとめた。「重症化リスクが低い人が発熱した場合は、医療機関を受診する前に新型コロナの自己検査を求め、発熱外来などの受診は重症化リスクの高い人を優先させ、医療ひっ迫を防ぐ。医療機関のひっ迫を防ぐため、発熱外来やかかりつけ医などの受診は、高齢者、小学生以下、妊婦、基礎疾患のある人の4類型に重点化する。

タスクフォースは、日本医師会や日本感染症学会、経団連、全国知事会など、各種団体で構成される。発熱患者対応を実効性あるものとすべく、感染状況の共有や国民への情報発信で協力する。岸田文雄首相は10月13日の初会合で、「対策をしっかりと動かしていくために、現場での連携と協力が不可欠だ。国民への対策の周知・広報についても、一丸となって進めていきたい」とあいさつした。



(以上「医療維新」より引用 2022年10月14日配信 )

以下は個人的見解です。

お願いですから、コロナの指定感染症を解除して、一般の疾患と同列にしてください。発熱の人は辛ければ受診、自制内であれば下熱剤や葛根湯を服用して休む、でいいのでは? 

上記のような複雑なシステムでは、一般市民は混乱するだけです。

コロナへのPCRも止めましょう!
2022.10.18 10:56 | pmlink.png 固定リンク | folder.png 医療福祉問題
コロナ後遺症対応医療機関
東京都から掲題医療機関に登録するようメールがありました。コロナ後遺症で困っている方が多いのだと思います。新型コロナ後遺症に関する当院の方針を記します。

東京都保健福祉局のサイトには21種類もの症状(倦怠感、疲労感、筋肉痛、咳、息切れ、脱毛、集中力低下、頭痛、発熱、味覚障害、下痢、睡眠障害、ブレインフォグ、喀痰、胸痛、記憶障害、不眠、抑うつ、嗅覚障害、動悸、筋力低下)と各症状に対応可能な医療機関が一蘭表になっています(東京都保健福祉局サイト

上記の症状の根本は、ウイルス感染後の慢性炎症と考えられますが、自律神経の緊張によって症状が遷延化(長引いてしまう)ことが予想されます。

風邪を引いた後に咳が長引く人、疲労蓄積によって蕁麻疹が出る人、なども自律神経の緊張による慢性炎症が原因です。自律神経の緊張状態では、白血球がさまざまな炎症惹起物質(サイトカイン)を放出しますので、皮膚、粘膜、筋肉、神経などの炎症が慢性化します。

一方、局所の症状に捉われすぎると、感覚神経が敏感になり(いわゆる脳過敏)、症状が長期間持続します。脳内の神経回路が固定化され、条件反射的に神経の興奮が惹起されるので、局所の炎症はないにもかかわらず、痛みが固定化します。このような症状は疼痛症(CPS: chronic pain syndrome (G89.4))と診断されます。疼痛症は除外診断といって、可能性のある病気が全て否定されたあとに診断されます。

疼痛症と似た概念に複合性局所疼痛症候群(CRPS(G90.5)RSDとも呼ばれる)があります。これは大怪我の後、明らかな神経障害を認めないにも関わらず、慢性的に交感神経の緊張によって、局所の激痛、むくみ、色素沈着が起こっている状態です。疼痛症では局所の変化は認めません。

コロナ後遺症でも、他覚所見(検査や診察による明らかな異常)が見られないが、自覚症状がある状態で、適切な治療につながらない場合が多いと予想されます。神経内科、循環器内科、呼吸器内科、皮膚科、整形外科、耳鼻科などを受診しても、異常がありませんの一言で帰されてしまうと、患者の不安はますます高まり、症状は固定して治りにくくなります。

症状を固定させないためには、脳(自律神経)の緊張をほぐすような治療が必要になってきます。当院では新型コロナ後遺症に対して、自己管理の方法(運動、食事、症状に対する考え方)をテーマに2週間に1度の割合で通院していただき、必要に応じて抗不安薬や抗うつ薬等を使用します。漢方をご希望の方は加味帰脾湯を使用します。

ウイルス感染後症候群(post-viral syndrome) 健康一口メモ

Long-term effects of coronavirus (NHS) 英国国民健康サービス

Long COVID  米国疾病対策予防センター
2022.10.17 16:31 | pmlink.png 固定リンク | folder.png 医療福祉問題
アインシュタインとセイルボート
BoatU.S.に興味深い記事を見つけました。私も50歳からセイルボートを始めました。
DeepLで翻訳したものを転載します。



アルベルト・アインシュタインは、世界の謎を解き明かしながらも、私たちと同じように、水辺でボートに乗って遊んでいたのです。

「天才」という言葉を聞いて、多くの人が思い浮かべるのは、慈愛に満ちたしわだらけの顔の上に、乱れた白髪を四方八方に振り乱している姿ではないだろうか。その背景には、長い黒板があり、細かい文字が書き込まれている。この顔は、1905年に物理学の世界を震撼させ、現代の空間と時間の研究の基礎となった「相対性理論」を発表したドイツ生まれの物理学者の顔であり、天才と最も結びついた顔である。彼の最も有名な公式であるE=mc2は、老若男女を問わず、あらゆる場所で認識されている。しかし、それが何を意味するのかを説明できる人はほとんどおらず、その意味を理解できる人はさらに少ない。

アインシュタインは、世界で最も偉大な頭脳の持ち主でありながら、多くの点で、私たちと同じような人間であった。彼は、余暇に自分の考えを整理するために、埃まみれの本が並ぶ象牙の塔に閉じこもり、世間の目を気にするようなことはしなかった。その代わり、自分の船に乗ることを切望していた。もし、彼が何度も船を座礁させたとしても、その時々の船乗りとしての技量のなさは、彼のインスピレーションを刺激するものであったかもしれない、と考えることができるだろう。



第二次世界大戦で家も財産も奪われ、世界で最も有名な難民となる前のアインシュタインは、50歳の誕生日に友人から贈られた自慢の21フィートのスループ「タムラー」に乗って、機会あるごとに彷徨っていたそうで、医者から静養を命じられた後だった。タムラーとは「イルカ」という意味で、アインシュタインの好みに合わせて造られた。アインシュタインは、エンジンが苦手で、車の運転も習ったことがなかった。タムラー号は、船内エンジンを巧みに隠し、使わないときは制御装置も見えないようになっていた。小さな船室には、小さな頭部と座席があり、パイプを収納するための棚もあった。

アインシュタインは、1933年にゲシュタポに全財産を没収されるまで、ドイツ・カプトの別荘からタンムラー号を走らせていた。その後、亡命先のニュージャージー州から、愛用の「分厚い小舟」をナチスの魔の手から逃れさせようとしたが、失敗に終わった。ドイツ造船所のオーナーは、タンムラーを中立国に移してアメリカに送ることもできたはずだが、ナチスの報復を恐れて、それをしなかったのだ。結局、タムラーはオークションで売却され、1940年代半ばにその記録は消えてしまった。

アインシュタインは、渡米後、もう1隻、15フィートの船を所有し、ニューイングランドを航海していた。ティネフとは、イディッシュ語で「価値のない」、あるいは単に「がらくた」を意味する。おそらく、もっと立派な船であるタムラー号と比較していたのだろう。あるいは、遊び心で「ティネフ」と呼んだのかもしれない。ティネフは船乗りの腕前がよく、他の船に向かって猛スピードで突っ走ったかと思うと、最後の最後で笑って追い返したという話もあるし、家から数百メートルのところにある砂州に定期的に座礁していたという話もあって、船乗りの無能ぶりがうかがえる。ティネフは結局、ニューヨークのサラナク湖で航海中に岩に乗り上げてしまい、その痕跡も写真も残っていない。

風や潮の満ち引き、波など、常に変化し、予測不可能な要素を伴う船遊びを、あれほど整然と正確に思考していた人物が楽しむことができたのは、不思議に思う人もいるようだ。それは、「複雑な科学的思考から解放されるには、多少のカオスが必要だったのかもしれない」と推測する。しかし、ボートを愛し、できるだけ多くの時間を水の上で過ごす私たちは、違う結論を出すかもしれない。私たちは、自然の力が、穏やかに水面を揺らすにせよ、轟々としたうねりとなって積み重なるにせよ、常に発揮されていること、大きな秩序を示していることを知っていますし、アインシュタインの研究が、まさにその力を扱っていなかったとしたら、何を扱っていたのでしょうか?アインシュタインの有名な方程式にある目に見えない「E」というエネルギーが物質を動かし、海や船を愛する私たちを夢中にさせる風や潮流や波を生み出しているのです。アルベルト・アインシュタインは、自然の営みの果てにあるものを見ることで、その根源にある自然の法則を認識し、定義することができたのかもしれない。

Einstein's Energy for His Boats(BoatU.S.)
2022.10.17 16:29 | pmlink.png 固定リンク | folder.png つぶやき
2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム(日本糖尿病学会)
2022-9-5日本糖尿病学会が「2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム」を公表した。

作成の背景として,3 つのことが挙げられる.

1 つ目は,欧米人と日本人の糖尿病の病態の違いである.欧米人においてはインスリン抵抗性主体の肥満糖尿病が多いのに対し,日本人では肥満と非肥満が半々で,日本人 2 型糖尿病の発症にはインスリン分泌能の低下がより深く関連していると考えられる.

2 つ目は,欧米と日本の 2 型糖尿病の治療戦略の違いである.欧米では 2021 年度版まで,初回処方薬としてビグアナイド薬が推奨されてきた.

3 つ目として,National Database の解析により日本の 2型糖尿病の初回処方の実態が実際に欧米とは大きく異なることが明らかになったことが挙げられる(J Diabetes Investig. 13:280-291, 2022).

海外ではビグアナイドが第一選択であるが、日本ではDPP4が好んで使用される。

若年成人発症型糖尿病(maturity onset diabetes of theyoung;MODY)に関わるパスウェイが両民族集団において 2 型糖尿病と最も強く関連している。



1. インスリンの適応の評価と目標 HbA1c の設定
目標HbA1c:理想は7.0未満であるが、75歳以上においてはゆるく設定する(8未満)。

2. 2 型糖尿病における肥満合併の評価の重要性
2 型糖尿病の病態であるインスリン分泌不全およびインスリン抵抗性を臨床的に評価するには,インスリン分泌指数(II, insulinogenic index)やC-peptide indexなどのインスリン分泌能に関する指標や HOMA-IR などのインスリン抵抗性に関する指標が有用であるが,common disease である 2 型糖尿病全例に対してそれらの評価を行うことは現実的には困難と考えられる.

肥満度(BMI)とインスリン抵抗性には正相関があるため,肥満度が高い症例ではインスリン抵抗性の 2 型糖尿病の病態への寄与度が高いと考えられる。

肥満症例における薬剤の候補としては,インスリン分泌非促進系のビグアナイド薬,SGLT2 阻害薬,チアゾリジン薬などに加え,インスリン分泌促進系薬剤の中では体重減少効果が期待できるGLP-1受容体作動薬やインスリン抵抗性改善作用を併せ持つイメグリミン(ツイミーグ)も良い適応であると考えられる.

非肥満の 2 型糖尿病の多くは,インスリン分泌不全が病態の主体であるため,インスリン分泌促進系薬剤を中心に薬剤選択を行う.DPP-4 阻害薬は本邦の 2 型糖尿病の初回処方として最も多く選択されている。メトホルミンは日本人において非肥満においても肥満と同程度のHbA1c 低下作用を示すことから,非肥満例でも候補薬の一つとなりうる。

体重減少をきたしやすい糖尿病治療薬(GLP-1受容体作動薬および SGLT2 阻害薬)を痩せの症例に使用する場合には16),サルコペニアやフレイルなどの老年症候群のリスクを高める可能性がある。

血糖非依存性インスリン分泌促進薬(SU 薬およびグリニド薬)の多くは腎排泄型であるため,腎機能低下者では低血糖リスクが高まる可能性がある



3.安全性への配慮
1)低血糖リスクの高い血糖非依存性インスリン分泌促進薬であるSU 薬およびグリニド薬の高齢者への使用に関する注意喚起,
2)頻度の高い併
存症である腎機能障害合併時の薬剤選択の注意点,
3)心不全合併例における禁忌薬をフロー中に記載 欧米では心不全合併糖尿病におけるメトホルミンの心不全入院や死亡リスク低下の報告48~50)から,心不全例のメトホルミンの禁忌は解除されている。

‌4.Additional benefits を考慮すべき併存疾患
i)心血管疾患
心血管疾患を合併した 2 型糖尿病においては,SGLT2阻害薬,次いで GLP-1 受容体作動薬を推奨度の高い候
補薬とした.

ii)心不全
心不全合併 2 型糖尿病においては,SGLT2 阻害薬を第一選択薬とした.

iii)慢性腎臓病(特に顕性腎症)
アルブ
ミン尿(特に顕性腎症期相当)を有する症例においては,血糖降下作用にかかわらず SGLT2 阻害薬を第一選択薬として考慮すべきである

5.考慮すべき患者背景(Step 4)
服薬遵守率→高齢化が著しい本邦においては,服薬回数をなるべく減らし,一包化や合剤の使用を含めた服薬管理が重要と考えられる.

医療費→糖尿病の医療費は脳血管障害,虚血性心疾患や人工透析を含めた生活習慣病関連 10 疾患のうち,入院医療費の第 3 位,入院外医療費の第 1 位

6.定期的な治療効果の判定と治療調整の必要性の判断
治療法の再評価と修正を検討するサイクルをおよそ 3 か月ごととし,糖尿病の病態や腎症等の合併症に沿った食事療法,運動療法,生活習慣の改善を促すと同時に,薬物療法の修正をする。

日本糖尿病学会誌第65巻第8号
2022.10.13 10:10 | pmlink.png 固定リンク | folder.png 診断治療

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