その49 ストレスを跳ね返す力(レジリエンス)
昨年5月の健康一口メモで「5月病 spring fever」についてまとめました。
https://www.sannoclinic.jp/cafe/archives/art/00033.html

5月病の原因として「4月の環境変化への適応行動が、5月初旬の大型連休で緩んでしまう」こと、その他「日照時間増加、気温の上昇、変わりやすい天気、春の生命の息吹き」など、気象病の症状として感情や行動の変化が起こることを説明しました。医学的には適応障害と診断されます。

今回のテーマはストレスを跳ね返す力(レジリエンス)です。このように環境変化が起こった時に、適応障害を発症する人としない人がいるのは、両者の何が違うのでしょうか。

レジリエンスとは、economic resilience(経済の回復)、skin resilience(肌の弾力)などように「回復力」「弾力」などの意味で使われます。精神医学においては「レジリアンス」と表記され、決まった訳語はありませんが、ストレス要因への「抵抗力」や「対応力」の意味で用いられます。

「キャパ(capacity)が狭い」「キャパオーバー」などといいますが、レジリエンスの高い人はキャパが広いということになります。一般的に子供はレジリエンスが低く、年をとるごとにレジリエンスは高まってきます。一方で、単純な肉体疲労の回復は、年齢とともに低下していくことは言うまでもありません。レジリエンスは疲労を蓄積させない(器を大きくして、溜まったストレスをすぐに排出する)技です。

心理的柔軟性(psychological flexibility)1)という心理学用語もレジリエンスと同義語といえます。心理学者レビンによれば、心理的柔軟性は①変えられないものは受け入れる、②今自分がやるべきことに専念する、③人のせいにしない、④冷静に主張する、⑤自身を俯瞰する、というスタンスから生まれるといいます。

レジリエンスも心理的柔軟性も個人差はあるものの、生まれつき備わっているものではありません。成長とともに身につけていくスキルです。「私は体が硬い」という人は、柔軟体操を毎日行っていない人がほとんどです。レジリエンスを高めるためには、心理的柔軟性の5つのスタンスに沿って、自分の行動と思考様式を軌道修正する必要があります。

レジリエントな人は、ありふれたライフイベントや慢性的なストレッサーに順応したり、速やかに調節することができます(災い転じて福となすことができる、人間万事塞翁が馬を知っている、嬉しいときには自己を律し逆境においてもやるべきことができるetc)。ピンチはチャンスと考えられる人です。

一方で、米国の臨床心理学者ジュリアン・ロッター氏は「自己をコントロールする力が自己の内部にあるか外部にあるか(locus of control)2)」を個人の判断指標として提案しました。この指標が高いほど、自分本位で考え対処していこうとする傾向があるのに対して、低い場合は、他力本願的に対処しようとする傾向があるのです。

ここまで考えると、環境変化で体調を崩さないためには、常日頃から心の柔軟体操を行い、人に頼りすぎず、自分で考えて物事に対応することが大切になります。但し、疲労感が休息によって改善しないときは、無理をせず専門医に相談することが必要です。

季節の変わり目で体調崩しやすい時期ですが、こころと体の柔軟体操を日常生活の中に組み込んで、レジリエントな人(疲れない人)になりましょう。

以上です。

1) psychological flexibility; Levin, M. E. (2012) doi: 10.1016/j.beth.2012.05.003
2) locus of control; Rotter, Julian B (1966) doi: 10.1037/h0092976
2023.05.09 14:15 | pmlink.png 固定リンク | folder.png 健康一口メモ

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