その54 鎮痛薬の安全な使い方
先日、10年位前から頭痛で通院している患者さんが「季節の変わり目で毎日頭痛があるので、市販の頭痛薬を毎日飲んでます」とお話されました。商品名を聞いてみると、鎮静薬を含んだ鎮痛薬でした。痛み止めとして鎮痛薬を服用するのはいいのですが、服用しすぎると痛みが慢性化しますし、鎮痛薬鎮静薬(眠くさせる成分)が含まれていると依存性(毎日のように服用せずにはいられなくなる)や薬物の消退症状(薬が切れると落ち着かなくなること)が問題になります。

みなさん、こんにちは。今月の健康一口メモのテーマは「鎮痛薬の安全な使い方」です。お伝したいことは、①鎮痛薬の飲み過ぎで痛みが慢性化する(薬物関連頭痛)、②鎮静薬が含まれていると、薬が切れた時に不安になってまた服用するので依存を形成する、の2点です。

薬剤関連頭痛とは?
定義上、月に15日以上3ヶ月に渡って鎮痛薬を服用する必要のある頭痛を「薬剤関連頭痛(MOH:Medication Overuse Headache)」といいます。鎮痛薬は痛み物質(プロスタグランジン)を作らせないようにする薬ですが、痛み物質を抑えることにによって、感覚神経がより敏感になる状態となります。薬の代わりに、ストレッチ、マッサージ、温めるまたは冷やすなどして症状緩和に努めます。

鎮痛薬に添加されている鎮静薬への依存
「ブロモバレリル尿素」「アリルイソプロピルアセチル尿素」は一部の市販の鎮痛薬に添加される鎮静薬です。これらが添加されていると眠気をきたしますので、確かに痛みは感じにくくなります。これらは非常に依存が生じやすい成分であり、米国などではすでに医薬品としては禁止されていますが、日本では簡単に手に入ります。具体的には「ナロン錠(大正)」「ナロンエース(大正)」「イブクイック(エスエス)」「イブA(エスエス)」「セデスハイ(シオノギ)」「バファリンプレミアム(ライオン)」「ロキソニンプレミアム(第一三共)」です。鎮痛薬ではなく睡眠薬として市販されている「ウット」は多量の鎮静薬を含んでいます。

これらの鎮静薬は半減期が2.5時間と短時間で体内から排出されるため、血中濃度が減少すると不安感が出現し、再び服用すると不安感が消失するので、薬が手放せなくなります。さらに、「ロキソニンプレミム」以外は2類医薬品であり、薬剤師の説明なしで気軽に購入できるようになっています。商品名も似通っているので、選ぶのも一苦労です。



上表のピンクの薬は、鎮静薬を含むので服用しないようにしましよう。緑の薬であっても服用は週に3回までにしましょう。紫の薬は鎮静薬の含有量が多く、過量服用で死亡例もある薬です。科学警察研究所資料によるブロモバレリル尿素中毒死者数は,1999年に37人,2000年に42人(多剤同時摂取を含む)と発表されています。致死量は20g前後と言われています。

鎮痛薬を選ぶときは、週に4回以上は慢性的に使用せず、特に成分に〇〇尿素が含まれているものは選ばないように気をつけましょう。ただし生理痛の時は、初日2日間は子宮収縮によってプロスタグランジンという痛み物質が放出されるため、2日間は痛みが弱くても1日3回鎮痛薬を服用することが有用です。

以上です。

Migraine
N Engl J Med 2020;383:1866-76.

Pathophysiology, prevention, and treatment of medication overuse headacheLancet Neurol 2019; 18: 891–902

日本中毒学会 http://jsct-web.umin.jp/shiryou/archive2/no3/
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