その78 自己保健義務とは
安全配慮義務とは、使用者(会社)が労働者の生命・身体・健康を危険から保護するため
に必要な配慮をする義務
を指します(労働契約法第5条)。


自己保健義務とは、労働者自身が自らの健康を維持し、就労に耐えうる状態を保つ義務
ことです。日本法に明文規定はありませんが、以下に基づき導かれます。

労働契約法第3条第4項
労働者及び使用者は、労働契約の内容を遵守するとともに、信義に従い誠実に行動
しなければならない。

労働契約法第5条の反対解釈
使用者が安全に配慮する義務を負う一方で、労働者にも自らの安全を害しないよう
に行動する義務があるとされる。

民法第1条2項(信義則)
労働者も社会通念上、自己の健康を著しく害する行為を避け、雇用関係を誠実に維
持する義務
があると解釈される。

自己保健義務を怠っていると評価される可能性のある行動には以下のようなものがありま
す:
• 健康管理を怠る例
• 医師からの治療指示(服薬・通院)を守らずに病状を悪化させる
• 慢性的な睡眠不足や暴飲暴食など、不摂生な生活習慣を続ける
• 高熱があるにもかかわらず無理に出勤し、同僚に感染症を拡大させる
• アルコール依存状態にもかかわらず業務に従事し事故の危険を高める
• 長期間の無断欠勤を繰り返し、業務遂行に重大な支障を与える
• メンタルヘルス上の不調を自覚しながら放置し、急な休職で職場に過大な
負担を与える

自己保健義務を怠った場合の判例
健診拒否事件(最高裁 平成13年4月26日/昭和61年3月13日)
• 内容:法定健診や会社指定精密検査を拒否。
• 判断:安全配慮義務違反の問題ではなく、懲戒処分の有効性を認定。

システムコンサルタント過労死事件(東京高裁 平成11年7月28日)
• 内容:高血圧を放置したSEが過重労働で脳出血死。
• 判断:会社の安全配慮義務違反を認めたが、本人が「医師の受診・治療を全く
行わなかった」ため 50%過失相殺。

飲食店店長くも膜下出血事件(東京地裁 平成22年2月24日)
• 内容:健康診断で高血圧と診断され、会社からも受診勧奨を受けたが、治療を
怠った。
• 判断:会社責任を認めつつも、労働者の自己保健義務違反を重視し 30%過失相
殺。

判例のまとめ
• 自己保健義務違反があったとしても、過失相殺として最大50%程度が判例上の限
度。
自己保健義務の賠償が安全配慮義務を上回る判例は存在しない。


メンタル不調者の自己保健義務
メンタル不調者は、判断力や自己管理能力が低下していることがあり、「自己保健義務違
反」として一方的に責められるものではありません。そのため、レポートライン(社内の
報告経路)の上位の管理者
が、直属の部下のメンタル不調を早期に発見し、適切な対応や
職場環境の改善を行う必要があります。直接部下への声掛けが難しい場合は、人事部や産


厚生労働省「労働者の心の健康保持増進のための指針」

業医への相談することが有用です。労働者のメンタルヘルスを守ることは、企業に課せら
れた安全配慮義務を果たすことにもつながります。


メンタル不調は、高血圧、糖尿病、貧血などのように数値評価が困難です。労働者が上長
や人事部に相談しにくい場合もあります。労働者のメンタルケアは、上図のように、本人
以外に「(レポートラインの)上長」「健康管理部門」「外部専門家」が継続して関わるこ
とが大切です。


そろそろストレスチェックが始まりますが、もし高ストレス者の判定が出た場合は、進ん
で産業医面談をお受けになるようにお願いします。


以上です。

労働者の心の健康保持増進のための指針(厚生労働省) 平成27年11月
職場における心の健康づくり(厚生労働省 労働安全機構) 令和5年4月
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