その15 新常態の働き方 The new normal for offices
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的大流行(pandemic)により、我々の生活がガラリと変わってしまいました。pandemic後の新しい生活様式を新常態(new normal)とかポストコロナなど表現されますが、元々は2007年のリーマンショック後の経済活動変化を指す言葉だったとのことです。

その特徴は、1)ソーシャルディスタンス、2)3密の回避、3)テレワーク、4)オンライン、5)キャッシュレスなどに代表される生活様式です。先日もディズニーランドが4ヶ月ぶりに開場されましたが、入場を待つ人々は地面の足跡マークに間隔を開けて並び、ディズニーキャラクターもソーシャルディスタンスを守って踊っていました。

COVID-19の国内発生は2月中旬ですが、駅のホームから「時差出勤やテレワークを努めるよう」アナウンスされていました。そのころは、テレワークなんて無理だろう、などと思っていましたが、4月7日の非常事態宣言からテレワークをする企業の割合が増えてきて、中には会社には2ヶ月ぶりに来ましたなどという患者さんもいます。

新常態の働き方はどう変わるのでしょうか。
三菱総研によるとキーワードは、     
1)集合型から分散へ
2)リアルからバーチャルへ
3)対人緊張から孤独化へ

それぞれのキーワードをもう少し掘り下げてみましょう。
1)人々が集団を避け、リモートワークが導入されると、働き方に新しいストレスが生じます。日本では欧米(50%)に比べ、リモートワーク率が低く(23%)、リモートワーカーと出社者の間に生じる心理的な障壁が問題になっています。パーソル総研(2020年6月20日)のアンケートでは、出社者の40%以上がリモートワーカーに対して不公平感や怠勤の疑念を持っているとのことです。

2)働き方がリアルからバーチャルになると、①仕事の評価、②コミュニケーション、③仕事の割当方などに戸惑いを感じる場合が多くなっています。特にデジタルコミュニケーションは対面コミュニケーションと比べ、相手の視線や仕草などが認識されにくいので、仕事後の疲労感および消耗感が強いとの研究があります。

3)在宅勤務で対人接触が減ると人々の気持ちは内向きになります。コロナ鬱と呼ばれる気分の落ち込みが問題になっています。対策としては、友人や家族と密に連絡を取る、自然や動物に接する、有酸素運動を行う、などがあります。

内閣府(令和2年5/25から6/5まで 1万人へのインターネット調査)によりますと、調査期間中テレワークを行った割合は36.4%ですが、その内80%以上の人がテレワーク継続を希望しているとのことです。ただし、テレワークによって効率が上がったと回答した人は9.7%と限定的であり、日本の働き方はまだまだ発展途上と言えます。

新常態の働き方は、社内で新たなストレスが生まれやすい状態です。一方で時間節約や生産効率を高める可能性を有しています。皆で知恵を絞り、一つ一つの課題をクリアして、令和時代の新しい働き方を確立しましょう。

以上です。
2020.07.06 19:37 | pmlink.png 固定リンク | folder.png 健康一口メモ
その14 健康診断と人間ドック
新型コロナウイルスの話題が続きましたので、今回は健康管理についてまとめてみました。
労働安全法により事業主は労働者に雇い入れ時と年に1度の定期健康診断を義務付けています。費用は会社負担です。

それ以外に健保組合などの助成金を利用して、個人的に予約をして人間ドックを受ける方もいると思います。胃カメラ、大腸カメラ、腹部超音波、マンモグラフィー、脳ドックさらにはCTによる内臓脂肪などをオプションにつける方もいます。ところが最近は過剰な検査が問題になっています。

今日のテーマは、「健康診断のオプションはどの程度つけたらいいのか」 という話です。

まずがん検診についてです。現在わが国で広く行われている5部位の 癌検診(胃・大腸・子宮・乳房・肺)。そのうち無作為比較試験で有効性が認められているのは、大腸がん(便潜血)と乳がん(マンモグラフィ)の検診ですが、その効果(死亡率減少)は13~36%と微々たるものです。

最近問題になっているのは、以下のようながん検診の不利益です。

1)偽陽性
検査の精度は100%ではありませんから、がんではない人に「がんの疑いあり」という「偽陽性」と呼ばれる結果が出ることがあります。

2)レングス・バイアスド・サンプリング
進行が遅いがんは早く見つかるが、進行の早いがんは年に一度の検診から漏れてしまう。進行に20~30年かかるものを早期に見つけてしまうと、もしかしたら死ぬまで問題にならなかったものまで治療することになります。一方で「毎年検診を受けていたのになんで見つからなかったんだ」と悩むことになります。

上記のような、「過剰診断」「過剰治療」が問題になっています。見つけなくてもいい癌を見つけて、必要のない治療が行われるという意味です。賢明な国民はそのようなことを認識しているのかどうかわかりませんが、がん検診受診率は肺がん検診を除いて50%未満です。以下に厚労省が提唱するがん検診と男女別の受診率、米国の基準を示します。米国では検診対象者の年齢に上限があります。

◯肺がん (男51%、女41%)
(厚労省)40歳以上。毎年胸部X線および喀痰細胞診 
(米国)55歳から80歳で、ハイリスク男性患者(喫煙20本20年以上、禁煙して15年以内、)にLDCT(Low Dose CT 線量が10分の1 (1 mSv)検査を行う。

◯胃がん (男46%、女35%)
(厚労省)50歳以上。バリウム検査か上部消化管内視鏡、2年に1度、ABCD検診でAの人は不要。
(米国)特に定めなし。

◯大腸癌がん  (男44%、女38%)
(厚労省)40歳以上。毎年便潜血検査 
(米国)50才以上75歳以下の人は毎年便潜血検査。大腸ファイバーは異常がなければ10年に一度で十分。

◯乳がん  (受診率45%)
(厚労省)40歳以上。2年に1度マンモグラフィー(触診、視診は推奨しない)
(米国)50歳から75歳まで2年ごとにマンモ. 家族歴のある人は40代前半で行う。

◯子宮がん  (受診率42%)
(厚労省)20歳以上子宮頸部の細胞診および内診、2年に1度
(米国)21歳以上で始め、陰性であれば3年後。30から65歳の人も検査を行い陰性であれば、3年後に行う。HPV テストが陰性だった場合は5年毎に行う。

有効性が否定的な健診
<腫瘍マーカー> 擬陽性が多い。腫瘍の治療経過の指標とし用いる。
<消化管バリウム造影> 粘膜の色合いが不明であり、バリウムによる便秘や胃もたれが多い。X線被爆が問題となる。
< CTによる内臓脂肪> X線被爆が問題となる。
解像度が低く、偽陽性、偽陰性が多い。放射線被爆。高額。

結論
以上のことから考えますと、絶対に受けたほうがいい癌検診はなさそうです。がんは細胞内の遺伝子が傷つくことにより、細胞が異常に増殖することで発生します。遺伝子を傷つけることとしては、ストレス、運動不足、偏った食事、喫煙、飲酒などがありますので、生活習慣の改善が一番の予防につながります。ただし、遺伝するがんが知られていますので、そのような場合は定期的な検診が必要です。

以上です。

参考
厚労省ウェブサイト
臨床と研究 2019;96:884-8.
Choosing Wisely (米国内科学会)
2020.06.05 19:37 | pmlink.png 固定リンク | folder.png 健康一口メモ
その13 緊急事態宣言の延長
新緑が目に映えるようになってきましたが、皆様は在宅勤務の中いかがお過ごしでしょうか。緊急事態宣言が5月末日まで延長され、皆さんの自粛疲れもピークに達しているのではないでしょうか。

昨日は、レムデシビルという米国発の薬が認可されましたが、日本初のアビガンがまだ認可されません。両者ともRNA依存型RNAポリメラーゼ阻害薬と言って、ウイルスが細胞内に侵入した後増殖するために使われる酵素をブロックします。ですからウイルスが侵入したらなるべく早く使用したい薬です。

ところが現在治療法を示している日本感染症学会では、「60歳以上の患者で酸素投与が必要になったら使う」事を推奨しているため、なかなか薬の効果が発揮されません。現在医師会から軽傷者にアビガンが使用できるよう医師会から学会に再三提言しています。(2020-5-30追記:2020年5月17日、日本医師会 COVID-19有識者会議が「科学的エビデンスが整うまで、治療薬として認可すべきではない」と緊急提言。4月28日の横倉日本医師会会長の定例会見で、「アビガンの高齢者・ハイリスク患者への積極的投与を自民党に要望した」ばかりだったが。。。)

アビガンという薬は2014年、新型インフルエンザに対する薬として既に治験も終了し認可されている薬です。「初日は1600mgを1日2回、2日目から600mgを2回で4日間」と決まっていますが、新型コロナウイルス感染症には、何故か重症熱性血小板減少症(SFTS)に準じて「1800mgが2回、2日目から900mgが2回で計14日間」と投与量が増えているのです。このため認可に時間がかかっています。

新型コロナは若い人でも急に重症化することが知られており、軽傷のうちからアビガンを開始することが必要であり、患者さんもその方が何もしないで自宅、ホテルに待機するよりも安心だと思います。

東洋経済サイトの国内感染症状況を見ますと、国内の新規感染者数は減少傾向ですがまだ400人以上認められます。既に「感染拡大期」を通り越して「感染蔓延期」となっていますので、指定感染症は解除してインフルエンザ同様5類感染症にしていただきたいところですが、軽症者への治療が確立していないので、悩ましいところです。

dear hachi今回の一口メモは私見を記させていただきました。私も治療方針が定まらず、自粛一辺倒の専門家会議や重症治療に偏った学会の方針に大いなるストレスを抱えています。

私のストレス解消方法は愛犬ハチ(7歳)との散歩です。

以上です。

2020.05.05 19:36 | pmlink.png 固定リンク | folder.png 健康一口メモ
その12 新型コロナウイルスによる行動変容とこころの健康維持
桜も散り始め、世間は新型コロナウイルスによる自主ムードが広がり、なんともスッキリしない気分の毎日です。

在宅勤務をされている方も多いと思いますが、体調はいかがでしょうか。

通勤時間がなくなり、体の疲れは少なくなっている反面、直接人と話す機会が減って、仕事が非効率と感じる人も多いと聞いています。また、オフィスは仕事をする場所、自宅はのんびりする場所などという習慣が抜けないためか、家だとあまり集中できないという声も耳にします。スポーツジムも閉店いるところが多く、運動不足になりがちです。

小中高は5月6日まで休校の予定で、お子さんの過ごし方のご心配もあると思います。

テレビをつけると朝から晩までコロナ関連のニュースで世界中のメディアが悲惨な映像を流しており、それらを見るたびに不安な気持ちがかき立てられます。外出制限と相まって、人々の心に疲れが溜まりやすい状態です。今回は新型コロナウイルス感染症の流行による行動変容(生活の変化)とこころの健康維持について書きます。

新型感染症流行時の行動変容とストレス
1) 自分や離れて暮らす家族の健康に関する不安
2) 生活リズムの乱れによる不眠、集中力低下
3) 氾濫する情報へのとらわれ
4) 子供の日常生活に関する不安
5) 仕事に関する不安

こころの健康維持に必要なこと
1) ポジティブに考える
過去、どんな新型感染症も克服されてきた。 簡易検査や治療薬、ワクチンの開発の目処はついている。
インフルエンザは毎年2000万人が罹患し2000人以上が死亡(死亡率0.01%)。コロナは現在77人が死亡(0.2%であるが検査が保健所を通さずに行われれば罹患者は多いので死亡率はさらに下がる。
2) 早起きをする。ストレッチやジョギングをして体をなまらせない
3) 信頼できる情報のみを参照する
NHKのサイトがわかりやすい。
4) 子供と正しい知識を共有する。生活に過干渉にならず、子供の自主性を尊重する。
5) 将来のことばかりに囚われず、今できることを行う。

暗いニュースにつられて気分が落ち込むと免疫力が下がります。 とにかく笑うことが大切です。 家族でテレビゲームをやったり、お笑い番組を見たりするのもいいでしょう。

会社においても、すでに十分なBCP対策は講じていると思います。 先の事ばかり考えず、今自分が何をするべきなのかを意識して集中力を高めましょう。

以上です
2020.04.06 19:36 | pmlink.png 固定リンク | folder.png 健康一口メモ
その11 新型コロナウイルス感染症について
2019年12月2日中国武漢で原因不明の肺炎が報告され、2020年1月7日に新型コロナウイルス感染症と判明しました。その後感染が広がり90000人以上の感染者と3000人(3月4日WHO発表)以上の死者が出ています。

前回の健康一口メモ(2月7日に発行)の時点では、2月3日にダイアモンド・プリンセス号が大黒ふ頭に入稿した直後で、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の国内発生はなく、あまり危機感がありませんでした。ところが、2月17日に国内発生(バスの運転手)してから続々とヒトーヒト感染が起こっており、2月27日に政府より全国の小中高校の休校が要請されてから、感染症に対する不安感が一期の広まっています。

3月5日現在、国内の累積感染者(クルーズ船706人)は305人(死亡6人)で中国、韓国、イタリア、イランに次いでいます。これら4カ国は米国疾病管理予防センター(CDC)から、レベル3(不要不急の渡航禁止)が、日本はレベル2(感染予防の徹底、日本からの入国者は14日間健康監視)となっています。

日本から各国への入国制限も発表されており、外務省によるとインド、モンゴル、イスラエル、イラクなど多くの国、地域で日本からの入国が禁止されています(外務省サイト)。

一般のコロナウイルスは代表的な風邪のウイルスで、無治療でも3?4日で完治しますが、新型コロナウイルスは5日以上高熱が続き、肺炎を起こしやすい特徴があります。国立感染症研究所所によるとダイアモンドプリンセスの全例検査では、3711人中619人が陽性でしたが、うち300人が無症状だったとのことです。無症状の方も入院措置がとられましたが、CT検査を行なうとほぼ全員に肺炎の影を認めたのことです。はとんどの肺炎は無治療で自然に治ったとのことですが、PCR検査でウイルスが陰性になったあとでも。肺炎が進行して重症になる場合があり注意が必要です。

中国の発表によりコロナウイルスの特徴がわかってきました。

Report of the WHO-China Joint Mission on Coronavirus Disease 2019 (COVID-19), 16-24 February 2020

●感染力はインフルエンザより弱い。
濃厚接触者2800人から25000人を追跡して、感染したのは0.9?4.8%。同居していてもうつらないことが多い。

●感染者の死亡率は0.7%、インフルエンザでは0.01%。
現在重症者のみ検査されているので、実際はもっと低いと考えられます。

●治療薬がない。
現在新型インフルエンザ治療薬のアビガンやエイズ治療薬のカレトラの治験が進行中。

●19歳以下は軽症が97%。死亡率は0.2%。
ほとんどが自然に治りますが、急速に吸不全をきたす音あり。

●PCRの擬陽性(病気ではないのにウイルスが陽性となる)が多い。
ですから、軽症の人に検査を広げると、多くの擬陽性患者が出て重症者の治療が滞ることになります。

●ウイルスに数種類の亜型があることがわかってきました。
軽症型と重症型で、武漢で流行したものは後者です。国内で検出されているウイルスがどちらなのかは検査されていません。

我々がとるべき行動

 ●感染症の標準予防(手洗い、うがい、マスク、人混みを避ける)を徹底する。

 ●熱が出ても自制内(辛くない)であれば受診しない。熱が4日以上続くか、咳がひどい時は最寄りの保健所に連絡してから指示に従う。

 ●事業継続計画(BCP)の策定と管理(BPM)を行なう。

今後の見通し

 3月6日からウイルスPCR 検査が保険適応になりました。これからは指定医療機関が保健所を通さずに直接検査できるようになります。内服薬(アビガン、カレトラなど)の保険適応やワクチンの開発も進められています。指定感染症が解除されれば、インフルエンザと同様になるでしょう。

(2020-05-02追記:PCR検査は保険収載されたものの、未だに一般医療機関では施行できません。アビガンは2014年に新型インフルエンザに承認されているにも関わらず、一般医療機関のみならず感染症指定医療機関でも観察研究に登録していないと使用できません。アビガンに先駆けて昨日米国Gilead Sciences社のレミデシビル(注射薬)が日本で認可されると報道がありました。先週PMDA(独立行政法人 医薬品医療機器開発機構)にアビガンの適応外使用(新型インフルエンザの容量を新型コロナウイルス感染症に医師の判断で患者の承諾を得てしようすること)を提言しました。)

 PCR検査は擬陽性が多いので、治療対象は、4日以上の熱が続く人、肺炎がある人などに限定しないと医療資源が枯渇することになりますので、各人が正しい受診行動をとることが大切です。

以上です。
2020.03.06 19:35 | pmlink.png 固定リンク | folder.png 健康一口メモ

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