その71 しなやかな血管をつくりましょう
高血圧で通院中の方に「胸のレントゲンを撮りましょう」と勧めると「人間ドックでやっ
たばかりです」と答える方がいます。
下の2枚の写真をご覧ください。当院に高血圧で通院中のOさんの胸部レントゲン写真で
す。左は2018年右は2025年に撮影したものです。

我々循環器専門医が何を見てるかと言うと、肺、骨はもちろんですが、心臓の大きさや形
の経時変化です。具体的には,
胸の幅と心臓(写真真ん中のひょうたんみたいな白い影)の幅の比率(心胸郭比:CTR Cost
Thoracic Ratio)を計測します。下の図はそれを計測したものです。

2018年は46.7%、2025年は45.1%となっています。7年間でCTRが1.6%減少しています。心
臓が小さくなっているのです。心臓はゴム風船のような臓器で、その大きさは体の環境に
より、短時間で変化します。
CTR50%以上を心陰影拡大といい、心臓に負担がかかっていることを示します。心陰影が
拡大している(拡大していなくても)ときは、1)心肥大 心臓の壁が厚くなっている、2)心拡
大 心臓の内腔が広がっている、と2つの病態が考えられます。

心肥大は、心臓の肥満状態で酸素消費が高まるので、息切れや胸痛の原因となります。心
拡大は、心臓の筋肉が減少しているため、収縮力が低下し体に循環する血液量が低下し、
息切れやむくみをきたします。胸部X線では心臓の影を見ていますので、心臓の構造を確
認するために、超音波検査を行います。胸にジェルを塗って、プローべより超音波を当て
て、心臓の断面を観察して計測します。
尚、胸部X写真による放射線被曝は0.1mSv(シーベルト)で、年間自然放射線被曝量
2.1mSvと比べても十分に低く(胸部CTは5mSv)、年間100mSv以下の被曝では健康影響の明確
な証拠はないと言われています*。怖がらずに進んで検査を受けましょう。

心臓は身体中に血液を起きるポンプですが、心臓への負担は、心臓に入ってくる血液量
(前負荷)と心臓から出てゆく時の抵抗(後負荷)の程度に左右されます。前負荷は、血液量
に規定されるので、肥満や塩分を取り過ぎると大きくなります。後負荷は動脈硬化(高血
圧、糖尿病、脂質異常症)で血管が硬くなると高くなります。
心臓への負担を下げるためには、体重を適正に、塩分を取りすぎず、柔らかい血管を保つ
ことが大切です。
動脈硬化は、男性は40歳頃から女性は50歳頃から始まります。動脈硬化を防ぐには、
①食事 ②運動 ③ストレス軽減 ④睡眠 ⑤禁煙 が重要です。
健康診断で、肥満、高血圧、脂質異常、高血糖、心拡大などを指摘された方は、自分の心
臓の大きさ(CTR)を確認してみましょう。
冒頭にお示ししたOさんは、高血圧症、高コレ
ステロール血症で薬物治療中で、7年間毎月きちんと通院されています。週末は30分程度
ジョギングをしているとのことです。もうすぐ定年を迎えるとのことですが、心臓の状態
は7年前と比べて良くなっています。
動脈硬化は万病の元ですので、しなやかな血管をつくるよう生活習慣を心がけましょう。
以上です。
*日本放射線影響学会 「低線量放射線の人体影響」2019年
たばかりです」と答える方がいます。
下の2枚の写真をご覧ください。当院に高血圧で通院中のOさんの胸部レントゲン写真で
す。左は2018年右は2025年に撮影したものです。


我々循環器専門医が何を見てるかと言うと、肺、骨はもちろんですが、心臓の大きさや形
の経時変化です。具体的には,
胸の幅と心臓(写真真ん中のひょうたんみたいな白い影)の幅の比率(心胸郭比:CTR Cost
Thoracic Ratio)を計測します。下の図はそれを計測したものです。


2018年は46.7%、2025年は45.1%となっています。7年間でCTRが1.6%減少しています。心
臓が小さくなっているのです。心臓はゴム風船のような臓器で、その大きさは体の環境に
より、短時間で変化します。
CTR50%以上を心陰影拡大といい、心臓に負担がかかっていることを示します。心陰影が
拡大している(拡大していなくても)ときは、1)心肥大 心臓の壁が厚くなっている、2)心拡
大 心臓の内腔が広がっている、と2つの病態が考えられます。

心肥大は、心臓の肥満状態で酸素消費が高まるので、息切れや胸痛の原因となります。心
拡大は、心臓の筋肉が減少しているため、収縮力が低下し体に循環する血液量が低下し、
息切れやむくみをきたします。胸部X線では心臓の影を見ていますので、心臓の構造を確
認するために、超音波検査を行います。胸にジェルを塗って、プローべより超音波を当て
て、心臓の断面を観察して計測します。
尚、胸部X写真による放射線被曝は0.1mSv(シーベルト)で、年間自然放射線被曝量
2.1mSvと比べても十分に低く(胸部CTは5mSv)、年間100mSv以下の被曝では健康影響の明確
な証拠はないと言われています*。怖がらずに進んで検査を受けましょう。

心臓は身体中に血液を起きるポンプですが、心臓への負担は、心臓に入ってくる血液量
(前負荷)と心臓から出てゆく時の抵抗(後負荷)の程度に左右されます。前負荷は、血液量
に規定されるので、肥満や塩分を取り過ぎると大きくなります。後負荷は動脈硬化(高血
圧、糖尿病、脂質異常症)で血管が硬くなると高くなります。
心臓への負担を下げるためには、体重を適正に、塩分を取りすぎず、柔らかい血管を保つ
ことが大切です。
動脈硬化は、男性は40歳頃から女性は50歳頃から始まります。動脈硬化を防ぐには、
①食事 ②運動 ③ストレス軽減 ④睡眠 ⑤禁煙 が重要です。
健康診断で、肥満、高血圧、脂質異常、高血糖、心拡大などを指摘された方は、自分の心
臓の大きさ(CTR)を確認してみましょう。
冒頭にお示ししたOさんは、高血圧症、高コレ
ステロール血症で薬物治療中で、7年間毎月きちんと通院されています。週末は30分程度
ジョギングをしているとのことです。もうすぐ定年を迎えるとのことですが、心臓の状態
は7年前と比べて良くなっています。
動脈硬化は万病の元ですので、しなやかな血管をつくるよう生活習慣を心がけましょう。
以上です。
*日本放射線影響学会 「低線量放射線の人体影響」2019年
その70 継続と自己肯定
先日、私が通っている合気道道場の鏡開き式がありました。そこで合気道六段を允可(いんか、武道で昇段の際に用いられる文言で、許すという意味)された80代の方が、ご挨拶されました。「継続する上で大切なことは『自己肯定』だと思います」と。
稽古を続けて行く途中「自分はダメだ、下手くそだ、いくらやっても上手くならない、もうやめよう」と考えたり、逆に「週5回稽古に来て、短期間で黒帯をとった。自分はよくやったからもういいや」と考えたりしてやめるケースが多いのです。その証拠に、道場の名札は初段の人が一番多く、初段をとると稽古から離れてしまう人が多くみられます。
前者は、自分の達成を内面的に認めることができない、いわゆるインポスター(詐欺師)体験といい、1978年米国女性心理学者Clance, P.R.によって提唱されました。後者は、バーンアウト(燃えつき)と言われ、過剰なストレスが影響して稽古を継続できなくなります。いずれの状態も、自己肯定を高めることで回避できるとされています。
また、メンタル不調の方から「自己嫌悪しかないんです」とう言葉をよく聞きます。心身のエネルギーが低下している時に「自己肯定」すること、つまり自分を褒めるということは難しいと思います。「自己肯定」は「自己受容」すること、ありのままの自分を受け入れること、と説明されることもありますが、具体的にどうすればいいのでしょうか。
ここからは私見ですが、次の3つの絵をご覧ください。

赤いハートは自分のこころを示しています。こころの内側の水がこころの外側の水に反応せず、波一つない状態(明鏡止水)が理想です。全く水面が乱れないようにすることは難しいと思いますが、自分を他人と比べないことが大切です。

次の絵はうねる海面にボートに乗った自分を現したものです。うねる海面は気分の波を表しています。
気分が落ち込みそうになった時に無理をしてボートを漕いで進もうとすると、疲れてしまい、余計に落ち込む可能性があります。このような時は、くらげのように体の力を抜いて、気分の波に身を任せると時間とともに自然と気分が回復します。

しかし、いつまでも自然に任せていては進歩はありません。左の図は、こころの中に毛糸の糸が散乱している状態を示しています。若い人はまだ毛糸を巻きとる時間が少なく(経験が少なく)、毛糸の玉も小さく不安定な心性なることは仕方ありません。歳とともに色々と経験を重ねることで、それは徐々に大きくなっていきます。途中で解けてしまうこともあるかもしれませんが、コツコツと巻いていくと芯が大きくなります。そうして絶対的な自己、唯一無二の自己をどんどん成長させます。
「継続は力なり(Practice makes perfect)」と言われますが、継続するためには「自己肯定」が必要で、それはすなわち①他人と比べない、②無理をしない、③できることをコツコツ行うのがよいのではないかと私は考えています。
皆さんは、合気道の演武をご覧になったことはあるでしょうか。合気道の素晴らしいところは、試合がないことです。他者と競い合うのではなく、相手と型稽古を繰り返し、お互いを尊重して技を高めていきます。年齢を重ねれば重ねるほど技に磨きがかかります。私の師範は70代と80代の方ですが、全く抵抗できません。凄いです。
今年はできるだけ稽古をして、少しでも自分の芯を大きくしたいと思っています。
以上です。
合気道 鈴木俊雄師範
Clance, P.R.; Imes, S.A. (1978). “The imposter phenomenon in high achieving women: dynamics
and therapeutic intervention.”Psychotherapy: Theory, Research and Practice 15 (3): 241–247.
doi:10.1037/h0086006.
HJ Freudenberger (1974).”Staff Burnout”. Journal of social issues
稽古を続けて行く途中「自分はダメだ、下手くそだ、いくらやっても上手くならない、もうやめよう」と考えたり、逆に「週5回稽古に来て、短期間で黒帯をとった。自分はよくやったからもういいや」と考えたりしてやめるケースが多いのです。その証拠に、道場の名札は初段の人が一番多く、初段をとると稽古から離れてしまう人が多くみられます。
前者は、自分の達成を内面的に認めることができない、いわゆるインポスター(詐欺師)体験といい、1978年米国女性心理学者Clance, P.R.によって提唱されました。後者は、バーンアウト(燃えつき)と言われ、過剰なストレスが影響して稽古を継続できなくなります。いずれの状態も、自己肯定を高めることで回避できるとされています。
また、メンタル不調の方から「自己嫌悪しかないんです」とう言葉をよく聞きます。心身のエネルギーが低下している時に「自己肯定」すること、つまり自分を褒めるということは難しいと思います。「自己肯定」は「自己受容」すること、ありのままの自分を受け入れること、と説明されることもありますが、具体的にどうすればいいのでしょうか。
ここからは私見ですが、次の3つの絵をご覧ください。

赤いハートは自分のこころを示しています。こころの内側の水がこころの外側の水に反応せず、波一つない状態(明鏡止水)が理想です。全く水面が乱れないようにすることは難しいと思いますが、自分を他人と比べないことが大切です。

次の絵はうねる海面にボートに乗った自分を現したものです。うねる海面は気分の波を表しています。
気分が落ち込みそうになった時に無理をしてボートを漕いで進もうとすると、疲れてしまい、余計に落ち込む可能性があります。このような時は、くらげのように体の力を抜いて、気分の波に身を任せると時間とともに自然と気分が回復します。

しかし、いつまでも自然に任せていては進歩はありません。左の図は、こころの中に毛糸の糸が散乱している状態を示しています。若い人はまだ毛糸を巻きとる時間が少なく(経験が少なく)、毛糸の玉も小さく不安定な心性なることは仕方ありません。歳とともに色々と経験を重ねることで、それは徐々に大きくなっていきます。途中で解けてしまうこともあるかもしれませんが、コツコツと巻いていくと芯が大きくなります。そうして絶対的な自己、唯一無二の自己をどんどん成長させます。
「継続は力なり(Practice makes perfect)」と言われますが、継続するためには「自己肯定」が必要で、それはすなわち①他人と比べない、②無理をしない、③できることをコツコツ行うのがよいのではないかと私は考えています。
皆さんは、合気道の演武をご覧になったことはあるでしょうか。合気道の素晴らしいところは、試合がないことです。他者と競い合うのではなく、相手と型稽古を繰り返し、お互いを尊重して技を高めていきます。年齢を重ねれば重ねるほど技に磨きがかかります。私の師範は70代と80代の方ですが、全く抵抗できません。凄いです。
今年はできるだけ稽古をして、少しでも自分の芯を大きくしたいと思っています。
以上です。
合気道 鈴木俊雄師範
Clance, P.R.; Imes, S.A. (1978). “The imposter phenomenon in high achieving women: dynamics
and therapeutic intervention.”Psychotherapy: Theory, Research and Practice 15 (3): 241–247.
doi:10.1037/h0086006.
HJ Freudenberger (1974).”Staff Burnout”. Journal of social issues
その69 元気が出る漢方薬
新年の診療が始まり、いろいろな患者さんに「今年の抱負は」などとベタな質問をした時に「今年はゴゾウロップについて勉強したい」という方がいらっしゃいました。その方は外資系企業に勤務されているバリバリの会社員です。
「ゴゾウロップ?」と尋ねたところ、中国伝統医学(漢方医学)の「五臓六腑(陰陽五行説)」とのこと。うまい酒を飲んで「五臓六腑にしみわたるなー」という表現が頭に浮かぶことはありますが、「五臓」と「六腑」が何を表すか知りませんでした。
ネットで調べてみると「五臓」とは肝、心、脾、肺、腎とのことでした。これは現代医学における解剖学の臓器とは異なる概念だそうです。この中で、エネルギーの源を「腎気」といい、腎気が衰えた状態を「腎虚」といい、疲労や倦怠感などの症状が現れやすくなると言われています。つまり「腎」とは体内のエネルギーを貯めておく場所と理解されます。このことは紀元3世紀に金匱要略(きんきようりゃく)という中国の古典医学書に記されています。
その翌日にたまたま「八味丸を飲み始てからぐっすり眠れて、日中の疲労感がなくなった」という別の患者さんが来たので調べてみると、八味丸はまさに「腎気丸」と言われ、腎虚を治す漢方薬とのことでした。腎虚は疲労の他、不眠や、生殖器(不妊)、排尿に関係した症状が現れやすくなるとのことです。その他、中高年の高血圧、坐骨神経痛に有効との報告があります。

また東洋医学では、1)気の上昇(不安焦燥)、2)気うつ(抑うつ気分)、3)気虚(意欲低下)のように分類され、それぞれ黄連解毒湯、六君子湯、八味丸(八味地黄丸)が有効とされています。
徳川家康は60歳を過ぎてから八味丸を愛飲しており、73歳という当時では驚くほど高齢まで生きました。ちなみに豊臣秀吉は61歳、織田信長は49歳(自害)と短命です。
また、自然妊娠困難で体外受精を繰り返して不成功になった後に八味丸を服用して、半年で自然妊娠した症例報告もあります。腎(体内のエネルギー)は、漢方医学的には28歳で最高となり、それ以降はえ始めると言われています。腎を補う(補腎)代表的な漢方薬である八味丸は副作用もほとんどなく、小さな粒にかためられているので飲みやすく、気になる症状がある人はぜひ試していただきたいと思います。

私も1週間前から飲み始めました。ぐっすり眠れ、気力も充実する感じ?がします。薬価は一粒1円、1日60粒×30日で1800円の3割負担なので、月540円です。漢方薬局で購入すると6~7000円します。添付文書上の効能・効果は「下肢痛,腰痛,しびれ,老人のかすみ目,かゆみ,排尿困難,頻尿,むくみ」です。
以上です。
(参考文献)
体外受精を繰り返した後に、ウチダの八味丸Mを 服用して自然妊娠に至った2症例
https://www.philkampo.com/pdf/phil67/phil67-06.pdf
戦国武将の養生訓(新潮新書)
「ゴゾウロップ?」と尋ねたところ、中国伝統医学(漢方医学)の「五臓六腑(陰陽五行説)」とのこと。うまい酒を飲んで「五臓六腑にしみわたるなー」という表現が頭に浮かぶことはありますが、「五臓」と「六腑」が何を表すか知りませんでした。
ネットで調べてみると「五臓」とは肝、心、脾、肺、腎とのことでした。これは現代医学における解剖学の臓器とは異なる概念だそうです。この中で、エネルギーの源を「腎気」といい、腎気が衰えた状態を「腎虚」といい、疲労や倦怠感などの症状が現れやすくなると言われています。つまり「腎」とは体内のエネルギーを貯めておく場所と理解されます。このことは紀元3世紀に金匱要略(きんきようりゃく)という中国の古典医学書に記されています。
その翌日にたまたま「八味丸を飲み始てからぐっすり眠れて、日中の疲労感がなくなった」という別の患者さんが来たので調べてみると、八味丸はまさに「腎気丸」と言われ、腎虚を治す漢方薬とのことでした。腎虚は疲労の他、不眠や、生殖器(不妊)、排尿に関係した症状が現れやすくなるとのことです。その他、中高年の高血圧、坐骨神経痛に有効との報告があります。

また東洋医学では、1)気の上昇(不安焦燥)、2)気うつ(抑うつ気分)、3)気虚(意欲低下)のように分類され、それぞれ黄連解毒湯、六君子湯、八味丸(八味地黄丸)が有効とされています。
徳川家康は60歳を過ぎてから八味丸を愛飲しており、73歳という当時では驚くほど高齢まで生きました。ちなみに豊臣秀吉は61歳、織田信長は49歳(自害)と短命です。
また、自然妊娠困難で体外受精を繰り返して不成功になった後に八味丸を服用して、半年で自然妊娠した症例報告もあります。腎(体内のエネルギー)は、漢方医学的には28歳で最高となり、それ以降はえ始めると言われています。腎を補う(補腎)代表的な漢方薬である八味丸は副作用もほとんどなく、小さな粒にかためられているので飲みやすく、気になる症状がある人はぜひ試していただきたいと思います。

私も1週間前から飲み始めました。ぐっすり眠れ、気力も充実する感じ?がします。薬価は一粒1円、1日60粒×30日で1800円の3割負担なので、月540円です。漢方薬局で購入すると6~7000円します。添付文書上の効能・効果は「下肢痛,腰痛,しびれ,老人のかすみ目,かゆみ,排尿困難,頻尿,むくみ」です。
以上です。
(参考文献)
体外受精を繰り返した後に、ウチダの八味丸Mを 服用して自然妊娠に至った2症例
https://www.philkampo.com/pdf/phil67/phil67-06.pdf
戦国武将の養生訓(新潮新書)
その68 行動活性化(Behavioral Activation)
先日SNSである東大生が「「勉強し始めるとスイッチが入って、勉強が続けられるようになる。5分だけでいいから勉強しようと思うことが大切なんです」と話していました。
このことはまさにうつ病に治療に応用されている「行動活性化」と一緒です。
「やる気がでないんです」と言う人がよくいますが、気分が乗らなくても5分でいいからやってみるのです。5分やって続けられないと思ったらやめてかまいません。
不思議なことにやり始めてみると少しずつ意欲が出て、思いのほかその行動に集中できることがあります。行動によって脳からドーパミンというやる気のホルモンが放出されることがわかっています。また、エンドルフィンという快楽のホルモンも分泌され、気分がスッキリします。
止まっているとネガティブな考えがぐるぐると頭の中に回り始め、何もできなかったとことに対して自己嫌悪に陥ります。それが抑うつ気分に悪循環です(下図)

どうしてもやる気が出ないときはあります。そのようなときは、すぐに取り組みやすい行動(エントリー行動 )をいくつか揃えておきましょう。
例えば、大きく伸びをして深呼吸する、手をグーパーする、あくびをする、腹を凹ませる、目を大きく開くなどです。これらを行うと脳からドーパミン、エンドルフィンが出てやる気スイッチが入りやすくなります。
行動を起こすことで気分が良くなり、更に行動を継続するという好循環が得られ、倦怠感と意欲低下の悪循環を断ち切ることができます。ただし、下図のようにうつ病の病相期では、無理に行動を起こすことは避けて、ゆっくりと休息をとります。

行動活性化はもともと認知行動療法という精神科治療の一部ですが、一般の人々のウェルビーイング(心身の健康と幸福)にも応用可能であることが研究で示されています。人間の幸せ(happiness)は、多くの正の気分と少ない負の気分の組み合わせからなり、人生に満足している状態です。それは必ずしも大きな家に住み、大きなテレビを所有するだけでは得られないものです。
人間の環境において嫌なことを避けることは、一時的に自分の気持ちを楽にさせますが、長い目で見たときに自分の成長を妨げることになります。幸福は、行動を起こすことで得られるのです。
以上です。
「Behavioral activation interventions for well-being: A meta-analysis」(DOI:10.1080/17439760903569154)
このことはまさにうつ病に治療に応用されている「行動活性化」と一緒です。
「やる気がでないんです」と言う人がよくいますが、気分が乗らなくても5分でいいからやってみるのです。5分やって続けられないと思ったらやめてかまいません。
不思議なことにやり始めてみると少しずつ意欲が出て、思いのほかその行動に集中できることがあります。行動によって脳からドーパミンというやる気のホルモンが放出されることがわかっています。また、エンドルフィンという快楽のホルモンも分泌され、気分がスッキリします。
止まっているとネガティブな考えがぐるぐると頭の中に回り始め、何もできなかったとことに対して自己嫌悪に陥ります。それが抑うつ気分に悪循環です(下図)

どうしてもやる気が出ないときはあります。そのようなときは、すぐに取り組みやすい行動(エントリー行動 )をいくつか揃えておきましょう。
例えば、大きく伸びをして深呼吸する、手をグーパーする、あくびをする、腹を凹ませる、目を大きく開くなどです。これらを行うと脳からドーパミン、エンドルフィンが出てやる気スイッチが入りやすくなります。
行動を起こすことで気分が良くなり、更に行動を継続するという好循環が得られ、倦怠感と意欲低下の悪循環を断ち切ることができます。ただし、下図のようにうつ病の病相期では、無理に行動を起こすことは避けて、ゆっくりと休息をとります。

行動活性化はもともと認知行動療法という精神科治療の一部ですが、一般の人々のウェルビーイング(心身の健康と幸福)にも応用可能であることが研究で示されています。人間の幸せ(happiness)は、多くの正の気分と少ない負の気分の組み合わせからなり、人生に満足している状態です。それは必ずしも大きな家に住み、大きなテレビを所有するだけでは得られないものです。
人間の環境において嫌なことを避けることは、一時的に自分の気持ちを楽にさせますが、長い目で見たときに自分の成長を妨げることになります。幸福は、行動を起こすことで得られるのです。
以上です。
「Behavioral activation interventions for well-being: A meta-analysis」(DOI:10.1080/17439760903569154)
その67 冬のスキンケア(ステロイドによるプロアクティブ療法)
秋冬は空気の乾燥により、角質の水分が減少して、皮膚のバリア機能が低下します。女性の皆さんは化粧水、日焼け止め、乳液、美容液などでこまめに肌のお手入れをしていると思います。
保湿剤(moistulizer)には、ワセリン(油性、個体)やセラミドのように皮膚にバリアを作り皮膚中の水分蒸発を防ぐエモリエント(emorients)と、グリセリン(水性、液体)やヒアルロン酸のように皮膚の中に潤いを与えるヒューメクタント(humectant)があります。つまり化粧水(ヒューメクタント)で水分を与えて、乳液でそれが蒸発しないように蓋(エモリエント)をするのです。
ところが、敏感肌の方(花粉症、じんましん、喘息、湿疹ができやすい方)は、化粧水や乳液の使用をおすすめしません。これらに含まれるエタノールや香料が肌に刺激を与えるため、皮膚に炎症を起こしてしまうからです。

上の表は保湿力の強さを物質ごとに並べたものです。セラミド、ヒアルロン酸、コラーゲンはいずれも皮膚を構成する物質で、水分保持機能が高い反面、バリア機能は高くありません。グリセリンも液体であり、吸湿性は高いもののバリア機能はワセリンにかないません。そこで保湿効果が最も高く、低価格のワセリンがおすすめです。
ワセリンは皮膚から水分の蒸発を抑えるだけでなく、皮膚からの熱の発散も抑えるため、塗ったところはじんわりと温かく感じます。また、肌擦れを防いだり、花粉やハウスダストの鼻への侵入を防ぐ作用もあります。デメリットはベタつきがありますが、ティッシュで抑えて10分ぐらいすると気にならなくなります。
最近はオールインワンと言って、化粧水、乳液、サンスクリーン、ファンデーションが合わさったDDクリームなどがありますが、刺激物が多く、皮膚表面の保護は必要です。ワセリン、サンスクリーン、ファンデーションを順番に塗るのがいいでしょう。

図のように、年配者の肌は若年者の肌に比べ、角質層(細胞の核がない表層部分、厚さ0.02mm)の配列が粗いのがわかります。つまり、年配者では、どんなに皮膚に潤いを加えても、それを閉じ込めるエモリエントが重要になるのです。

ステロイドのプロアクティブ療法*
正しいスキンケアを毎日行っていても、肌が乾燥したり赤くなったり痒くなったりする人は、保湿だけでは症状は改善しません。正常な肌にステロイド軟膏(白血球の働きを抑えて炎症を抑える)を週に1−2回塗ることで、副作用なく皮膚の炎症を予防することができます。塗り方は、左図のように1gの軟膏を両手の指先でよく伸ばして、トントンとタップします。目安は1gで両掌の面積です。炎症を起こしやすい部位は、顔や手の他、肘膝、下腿(膝から下)、乳頭、ウエストラインです。

以上です。 *皮膚科学会 https://www.dermatol.or.jp/qa/qa1/q11.html 当院では2倍量の塗布を推奨しています。
保湿剤(moistulizer)には、ワセリン(油性、個体)やセラミドのように皮膚にバリアを作り皮膚中の水分蒸発を防ぐエモリエント(emorients)と、グリセリン(水性、液体)やヒアルロン酸のように皮膚の中に潤いを与えるヒューメクタント(humectant)があります。つまり化粧水(ヒューメクタント)で水分を与えて、乳液でそれが蒸発しないように蓋(エモリエント)をするのです。
ところが、敏感肌の方(花粉症、じんましん、喘息、湿疹ができやすい方)は、化粧水や乳液の使用をおすすめしません。これらに含まれるエタノールや香料が肌に刺激を与えるため、皮膚に炎症を起こしてしまうからです。

上の表は保湿力の強さを物質ごとに並べたものです。セラミド、ヒアルロン酸、コラーゲンはいずれも皮膚を構成する物質で、水分保持機能が高い反面、バリア機能は高くありません。グリセリンも液体であり、吸湿性は高いもののバリア機能はワセリンにかないません。そこで保湿効果が最も高く、低価格のワセリンがおすすめです。
ワセリンは皮膚から水分の蒸発を抑えるだけでなく、皮膚からの熱の発散も抑えるため、塗ったところはじんわりと温かく感じます。また、肌擦れを防いだり、花粉やハウスダストの鼻への侵入を防ぐ作用もあります。デメリットはベタつきがありますが、ティッシュで抑えて10分ぐらいすると気にならなくなります。
最近はオールインワンと言って、化粧水、乳液、サンスクリーン、ファンデーションが合わさったDDクリームなどがありますが、刺激物が多く、皮膚表面の保護は必要です。ワセリン、サンスクリーン、ファンデーションを順番に塗るのがいいでしょう。

図のように、年配者の肌は若年者の肌に比べ、角質層(細胞の核がない表層部分、厚さ0.02mm)の配列が粗いのがわかります。つまり、年配者では、どんなに皮膚に潤いを加えても、それを閉じ込めるエモリエントが重要になるのです。

ステロイドのプロアクティブ療法*
正しいスキンケアを毎日行っていても、肌が乾燥したり赤くなったり痒くなったりする人は、保湿だけでは症状は改善しません。正常な肌にステロイド軟膏(白血球の働きを抑えて炎症を抑える)を週に1−2回塗ることで、副作用なく皮膚の炎症を予防することができます。塗り方は、左図のように1gの軟膏を両手の指先でよく伸ばして、トントンとタップします。目安は1gで両掌の面積です。炎症を起こしやすい部位は、顔や手の他、肘膝、下腿(膝から下)、乳頭、ウエストラインです。

以上です。 *皮膚科学会 https://www.dermatol.or.jp/qa/qa1/q11.html 当院では2倍量の塗布を推奨しています。