その59 男性更年期障害もあるの?
精神科の診療をしていると、気分の落ち込み、倦怠感、不眠、食欲低下など、いわゆるうつ状態の男性が「男性更年期障害ではないか」と質問されることがあります。
一般に更年期障害とは、女性ホルモン(エストロジェン)が大きく減少する45歳から55歳の女性の様々な症状を指します。それと同様に男性ホルモン(テストステロン)の低下でも、身体症状(身体の痛み、筋力の低下)、精神症状(抑うつ気分、不安、不眠)、性機能症状(性欲減退、勃起力の低下)が見られると言われています。
2002年に泌尿器科学会より「LOH症候群(Low-onsetHypogonadism:加齢男性性腺機能低下症候群)診療ガイドライン」が初めて発行され、2007年、2023年にも発行されましたが、LOH 症候群は ICD-11 (国際疾病分類第11版)には収載されておらず、日本でも保険病名ではなく、その病態は明らかになっていません。LOH症候群の症状は下図のとおりです(日本内分泌学会サイトより)。

上の症状は、うつ状態の症状とイコールではないでしょうか。
うつ状態と男性更年期を見分ける方法は、テストステロンを測定することですが、一般の精神科診療において、テストステロン値を調べることはしません。
ガイドラインでは総テストステロン(TT: total teststerone)値の閾値は250ng/dL、遊離テストステロン(FT: free teststerone)値の閾値は測定方法にかかわらず 7.5pg/ mLとしています。この基準から判断しますと、40 歳代の約 10%、50 歳代の約 20%、60 歳代の約 50%が FT 値の境界領域以下と報告されています。本邦においても高齢化が進み,LOH 症候群の有病率は増加していると思われますが、近年行われた LOH 症候群の疫学調査はありません。
遊離テストステロンの単位(ピコ: ナノの千分の一)を見ても明らかなように、測定値の不確実性が指摘されています。「日内変動もみられるため、朝食抜きで午前中の採血を4週間間隔で2回行う必要があり、LOH症候群の生化学的診断は世界的にも合意に達していない」とガイドラインに記されています。これでは、検査と治療に大変な手間と時間がかかります。
現在、一部の泌尿器科で行われているホルモン補充療法は、テストステロン注射薬を1−2週間おきに3ヶ月行い、症状の変化を見るものです。費用は1回1−2万円。中には男性性機能不全(声変わりや髭などの二次性徴が発来しない病気)の診断で、テストステロン注射を保険適応で行う場合があり、その際はその際は3割負担で2000円程度となります。
女性では45歳から55歳を更年期と呼び、その時期に見られる症状は様々であり、女性ホルモンであるエストロジェンを補充することで、症状の劇的な改善を認めることがあります。一方下図のように、男性ホルモンであるテストステロンは、50歳頃から徐々に減少しますが、85歳においてもピークの7−8割は認められることから、エストロジェンの補充ほどは劇的な効果は認められないのではないかと推察されます。

https://www.asahi.com/relife/article/14257034(朝日デジタルサイトより)
以上より、当院では「男性更年期障害かもしれない」と訴えて受診した場合は、①生活習慣の改善(生活リズム、運動、食事、嗜好品)、②副作用の少ない抗うつ薬、③傷病休暇(3ヶ月から1年の自宅療養)をお勧めします。
というのも、私は医師になって35年になりますが、うつ状態でテストステロン補充療法を受けて、症状が改善した人を1人も見たことがないからです。その反面、上記②の方法ですと、肌感覚ですが、3人に2人程度で症状が改善する印象があります。
最後になりますが、私自身はLOH=うつ状態と考えますので、男性更年期症状に対しては、ホルモン補充療法ではなく、上記の①から③をお試しになることをお勧めします。ホルモン補充療法は、お金と時間の無駄になるような気がします。
繰り返しになりますが、男性更年期障害(年が更(あら)たまる時期の諸症状=加齢変化)はあるとは思いますが、それに対してホルモン補充療法は第一選択ではないと考えます。
以上です。
(参考)
日本泌尿器科学会 LOH 症候群(加齢男性・性腺機能低下症)診療の手引き 2007年 2022年
一般に更年期障害とは、女性ホルモン(エストロジェン)が大きく減少する45歳から55歳の女性の様々な症状を指します。それと同様に男性ホルモン(テストステロン)の低下でも、身体症状(身体の痛み、筋力の低下)、精神症状(抑うつ気分、不安、不眠)、性機能症状(性欲減退、勃起力の低下)が見られると言われています。
2002年に泌尿器科学会より「LOH症候群(Low-onsetHypogonadism:加齢男性性腺機能低下症候群)診療ガイドライン」が初めて発行され、2007年、2023年にも発行されましたが、LOH 症候群は ICD-11 (国際疾病分類第11版)には収載されておらず、日本でも保険病名ではなく、その病態は明らかになっていません。LOH症候群の症状は下図のとおりです(日本内分泌学会サイトより)。

上の症状は、うつ状態の症状とイコールではないでしょうか。
うつ状態と男性更年期を見分ける方法は、テストステロンを測定することですが、一般の精神科診療において、テストステロン値を調べることはしません。
ガイドラインでは総テストステロン(TT: total teststerone)値の閾値は250ng/dL、遊離テストステロン(FT: free teststerone)値の閾値は測定方法にかかわらず 7.5pg/ mLとしています。この基準から判断しますと、40 歳代の約 10%、50 歳代の約 20%、60 歳代の約 50%が FT 値の境界領域以下と報告されています。本邦においても高齢化が進み,LOH 症候群の有病率は増加していると思われますが、近年行われた LOH 症候群の疫学調査はありません。
遊離テストステロンの単位(ピコ: ナノの千分の一)を見ても明らかなように、測定値の不確実性が指摘されています。「日内変動もみられるため、朝食抜きで午前中の採血を4週間間隔で2回行う必要があり、LOH症候群の生化学的診断は世界的にも合意に達していない」とガイドラインに記されています。これでは、検査と治療に大変な手間と時間がかかります。
現在、一部の泌尿器科で行われているホルモン補充療法は、テストステロン注射薬を1−2週間おきに3ヶ月行い、症状の変化を見るものです。費用は1回1−2万円。中には男性性機能不全(声変わりや髭などの二次性徴が発来しない病気)の診断で、テストステロン注射を保険適応で行う場合があり、その際はその際は3割負担で2000円程度となります。
女性では45歳から55歳を更年期と呼び、その時期に見られる症状は様々であり、女性ホルモンであるエストロジェンを補充することで、症状の劇的な改善を認めることがあります。一方下図のように、男性ホルモンであるテストステロンは、50歳頃から徐々に減少しますが、85歳においてもピークの7−8割は認められることから、エストロジェンの補充ほどは劇的な効果は認められないのではないかと推察されます。

https://www.asahi.com/relife/article/14257034(朝日デジタルサイトより)
以上より、当院では「男性更年期障害かもしれない」と訴えて受診した場合は、①生活習慣の改善(生活リズム、運動、食事、嗜好品)、②副作用の少ない抗うつ薬、③傷病休暇(3ヶ月から1年の自宅療養)をお勧めします。
というのも、私は医師になって35年になりますが、うつ状態でテストステロン補充療法を受けて、症状が改善した人を1人も見たことがないからです。その反面、上記②の方法ですと、肌感覚ですが、3人に2人程度で症状が改善する印象があります。
最後になりますが、私自身はLOH=うつ状態と考えますので、男性更年期症状に対しては、ホルモン補充療法ではなく、上記の①から③をお試しになることをお勧めします。ホルモン補充療法は、お金と時間の無駄になるような気がします。
繰り返しになりますが、男性更年期障害(年が更(あら)たまる時期の諸症状=加齢変化)はあるとは思いますが、それに対してホルモン補充療法は第一選択ではないと考えます。
以上です。
(参考)
日本泌尿器科学会 LOH 症候群(加齢男性・性腺機能低下症)診療の手引き 2007年 2022年
その58 便通を良くする生活習慣
庭に梅の花が開き始めましたが、まだまだ寒い日が続きます。
冬は乾燥のため体内の水分が減り、寒さのため運動量が減り血の巡りが悪くなるので、便秘が起こりやすくなります。
下の図のように、便秘は若い女性に多くみられますが、60代後半からは男女の比率が逆転します。

(令和元年・国民生活基礎調査より)
若い女性に便秘が多い原因として、
①腸が長く柔らかいため便がたまりやすい
②排卵後に卵巣から放出される黄体ホルモンが腸蠕動を抑える(黄体ホルモンが低下する月経後に排便が良くなる)
高齢者に便秘が多い原因としては、
①体内水分量の低下 (筋肉量の低下、口渇中枢の感度低下)
②運動量の低下
便秘を防ぐには、食物繊維と水分、運動、規則正しい排便行動などが有用であると言われています。今回は便通を良くする食材と運動と排便の姿勢についてまとめてみました。
便通を良くする食材
水溶性食物繊維 水溶性食物繊維が水に溶けて便を柔らかくする
わかめ、納豆、山芋、いちご、オクラ、アボカド、ひじき、キャベツ、白米など
不溶性食物繊維 水分を吸収して膨らみ便の量を増やす
ごぼう、さつまいも、じゃがいも、かぼちゃ、キャベツ、白米、玄米、りんごなど
便通を悪くする食材
小麦 小麦に含まれるグルテンというタンパク質は、水分を吸収すると粘着力が強く、腸粘膜に付着しするため排出しにくい食材です。またアレルギーのもと(アレルゲン)になるため、腸粘膜の炎症を起こすことがあり、腸内環境を悪化させやすいと言われています。小麦粉はグルテン量が多い順に、強力粉(パン、ピザ)、中力粉(うどん、ラーメン)、薄力粉(天ぷらの衣、クッキー)と分類されますので、パンやうどんにグルテンが多く含まれていることになります。
餅 もち米にはアミロペクチンという粘度の高いデンプンで構成されており、これまた腸粘膜にこびりつきやすのです。
便通を良くする運動 運動全般は血の巡りを良くするため便通をよくします。
特におすすめの運動は、①腹を凹ませる、②肛門を締める運動です。これならオフィスで仕事中、会議中でもできると思います。両手で腹の中に指を深く入れるようなマッサージも有効です。
便通を良くする排便姿勢
下の図は、左が便座に腰掛けたとき、右がしゃがんでいるときの直腸と肛門の角度が示されています。恥骨直腸筋という筋肉が直腸に巻き付いているので、座っているときは、直腸と肛門の角度が180度以下に曲がっていますが、しゃがむことでほぼ一直線になります。台に足を乗せて便座に座るとしゃがんだ姿勢になるので、時にはバズーカ砲のような排便を経験できますw。

https://detoxinista.com/squatty-potty-review/
食事と運動と排便姿勢を整えると、快適な排便が体験できます。食事と運動と排便姿勢を心がけて、スッキリした毎日を過ごしましょう。
以上です。
冬は乾燥のため体内の水分が減り、寒さのため運動量が減り血の巡りが悪くなるので、便秘が起こりやすくなります。
下の図のように、便秘は若い女性に多くみられますが、60代後半からは男女の比率が逆転します。

(令和元年・国民生活基礎調査より)
若い女性に便秘が多い原因として、
①腸が長く柔らかいため便がたまりやすい
②排卵後に卵巣から放出される黄体ホルモンが腸蠕動を抑える(黄体ホルモンが低下する月経後に排便が良くなる)
高齢者に便秘が多い原因としては、
①体内水分量の低下 (筋肉量の低下、口渇中枢の感度低下)
②運動量の低下
便秘を防ぐには、食物繊維と水分、運動、規則正しい排便行動などが有用であると言われています。今回は便通を良くする食材と運動と排便の姿勢についてまとめてみました。
便通を良くする食材
水溶性食物繊維 水溶性食物繊維が水に溶けて便を柔らかくする
わかめ、納豆、山芋、いちご、オクラ、アボカド、ひじき、キャベツ、白米など
不溶性食物繊維 水分を吸収して膨らみ便の量を増やす
ごぼう、さつまいも、じゃがいも、かぼちゃ、キャベツ、白米、玄米、りんごなど
便通を悪くする食材
小麦 小麦に含まれるグルテンというタンパク質は、水分を吸収すると粘着力が強く、腸粘膜に付着しするため排出しにくい食材です。またアレルギーのもと(アレルゲン)になるため、腸粘膜の炎症を起こすことがあり、腸内環境を悪化させやすいと言われています。小麦粉はグルテン量が多い順に、強力粉(パン、ピザ)、中力粉(うどん、ラーメン)、薄力粉(天ぷらの衣、クッキー)と分類されますので、パンやうどんにグルテンが多く含まれていることになります。
餅 もち米にはアミロペクチンという粘度の高いデンプンで構成されており、これまた腸粘膜にこびりつきやすのです。
便通を良くする運動 運動全般は血の巡りを良くするため便通をよくします。
特におすすめの運動は、①腹を凹ませる、②肛門を締める運動です。これならオフィスで仕事中、会議中でもできると思います。両手で腹の中に指を深く入れるようなマッサージも有効です。
便通を良くする排便姿勢
下の図は、左が便座に腰掛けたとき、右がしゃがんでいるときの直腸と肛門の角度が示されています。恥骨直腸筋という筋肉が直腸に巻き付いているので、座っているときは、直腸と肛門の角度が180度以下に曲がっていますが、しゃがむことでほぼ一直線になります。台に足を乗せて便座に座るとしゃがんだ姿勢になるので、時にはバズーカ砲のような排便を経験できますw。

https://detoxinista.com/squatty-potty-review/
食事と運動と排便姿勢を整えると、快適な排便が体験できます。食事と運動と排便姿勢を心がけて、スッキリした毎日を過ごしましょう。
以上です。
その57 いやな気分よ、さようなら
今年は新年早々、大地震や大事故が発生し、心中穏やかではないお正月を迎えました。こうした時期には気分が鬱々とし、頭がモヤモヤしてやる気がなくなることがあります。専門用語では反応性抑うつと言います。職場環境に心が反応してメンタル不調に陥る「適応障害」とも呼ばれます。それでは、環境に反応せずにいやな気分にならない方法はあるのでしょうか。
今日のテーマは「いやな気分よ、さようなら」です。いやな気分を払拭する基本原則は行動することです。静止しているといやな気分がどんどん増幅してきます。人間はそれまでの生活環境によって培われた固有の考え方があり、これを「自動思考」と言います。例えば、試験で悪い点数を取った時に「もうダメだ」と考え、勉強を放り出す人もいるし、「よーし、次こそは」と考え勉強時間を増やす人もいます。一般的に前者の行動は誤りであり、後者は正しい行動です。
下の図のように、ある刺激を受けると瞬間的に頭に浮かぶ思考が「自動思考」です。「自動思考」は「気分」と同義です。

その人の行動はその人に備わった自動思考に規定されるのです。ポジティブな自動思考であれば問題ありませんが、ネガティブな自動思考を持った人は、ある刺激を受けると気分が落ち込み、正しくない行動をとる傾向があります。ネガティブな自動思考をポジティブに変えるには、どうしたらいいでしょうか。長年かけて培われた自動思考を変えることは難しいので、行動を変えてみることが重要です。つまり、気が乗らなくても無理に正しい行動をしてみるのです。
先ほどの例では、試験に失敗して「もうだめだ」と思っても、気分を無視して勉強することです。キーワードは「いやいややる」「気分を無視して行動する」です。行動していると自然といやな気分がスーッとなくなってきます。
また対人関係でも、苦手な人と接する時は、いやだなという気分を無視して、初対面の人のように礼儀正しく振る舞っていると、いやな気分がなくなります。これらの方法は「認知行動療法」の一部であり、反応性うつ状態(適応障害)の治療に用いられます。反応性うつ状態は狭義のうつ病と異なり、薬物療法に反応しにくいので、このような行動変容(行動を前向きにすること)が大切になります。一方、狭義のうつ病は自動思考がポジディブな人に、特に誘因なく発症することが多く、抗うつ薬がよく効きます。
お正月明けは体が鈍っているせいか、物事に取り掛かるのが億劫になりがちです。その億劫さを無視して、先延ばししていたことに手をつけてみましょう。
以上です。
参考文献
デビット バーンズ 「いやな気分よ、さようなら」1997年 星和書店
今日のテーマは「いやな気分よ、さようなら」です。いやな気分を払拭する基本原則は行動することです。静止しているといやな気分がどんどん増幅してきます。人間はそれまでの生活環境によって培われた固有の考え方があり、これを「自動思考」と言います。例えば、試験で悪い点数を取った時に「もうダメだ」と考え、勉強を放り出す人もいるし、「よーし、次こそは」と考え勉強時間を増やす人もいます。一般的に前者の行動は誤りであり、後者は正しい行動です。
下の図のように、ある刺激を受けると瞬間的に頭に浮かぶ思考が「自動思考」です。「自動思考」は「気分」と同義です。

その人の行動はその人に備わった自動思考に規定されるのです。ポジティブな自動思考であれば問題ありませんが、ネガティブな自動思考を持った人は、ある刺激を受けると気分が落ち込み、正しくない行動をとる傾向があります。ネガティブな自動思考をポジティブに変えるには、どうしたらいいでしょうか。長年かけて培われた自動思考を変えることは難しいので、行動を変えてみることが重要です。つまり、気が乗らなくても無理に正しい行動をしてみるのです。
先ほどの例では、試験に失敗して「もうだめだ」と思っても、気分を無視して勉強することです。キーワードは「いやいややる」「気分を無視して行動する」です。行動していると自然といやな気分がスーッとなくなってきます。
また対人関係でも、苦手な人と接する時は、いやだなという気分を無視して、初対面の人のように礼儀正しく振る舞っていると、いやな気分がなくなります。これらの方法は「認知行動療法」の一部であり、反応性うつ状態(適応障害)の治療に用いられます。反応性うつ状態は狭義のうつ病と異なり、薬物療法に反応しにくいので、このような行動変容(行動を前向きにすること)が大切になります。一方、狭義のうつ病は自動思考がポジディブな人に、特に誘因なく発症することが多く、抗うつ薬がよく効きます。
お正月明けは体が鈍っているせいか、物事に取り掛かるのが億劫になりがちです。その億劫さを無視して、先延ばししていたことに手をつけてみましょう。
以上です。
参考文献
デビット バーンズ 「いやな気分よ、さようなら」1997年 星和書店
その56 血圧の話(高血圧編)
寒い季節になると、血圧が高いと受診する人が増えます。令和元年厚労省国民健康・栄養調査結果によると、収縮期が140mmHg以上の高血圧は、男性で29.9%、女性で24.9%であり、年々減少しています。
血圧は文字通り「血管にかかる圧力」です。血圧は血管の弾力性(硬さ)、血液量、心臓の収縮力で決まります。血圧120/70 mmHgと言えば、心臓が縮むとき時(収縮期)の圧力が120 mmHg、心臓が膨らんだ時(拡張期)の圧力が70 mmHgということです。mmHgとは水銀柱を上げる高さで、1気圧では760 mmでので、70 mmHgは0.1気圧ぐらいでしょうか。
血圧は年齢とともに高くなります。男性は女性と比較して血圧は高い傾向にありますが、女性は更年期(45‐55歳)で急に高くなるので注意が必要です。年齢と血圧の目安を表にまとめてみました*。

高血圧症の9割程度は「本態性高血圧(essential hypertension)」と呼ばれ、原因不明です。高血圧の原因疾患があるものを「2次性高血圧(secondery hypertension)」といい、腎臓病、ホルモン異常などがあります。若い女性で血圧が高い場合、甲状腺や副腎のホルモン異常(アルドステロン症)などがあり、ホルモンを調節する治療によって血圧が正常になります。
血管はゴムホースと同じで、使わないと硬くなります。運動しない人は血管が伸び縮みしないので硬くなります。メタボの人は血液量が多いので血管にかかる圧力が高くなります。また、緊張すると血管が縮むので、ストレスの多い人の血圧は高くなります。食事で気をつけることは減塩(6g以下)、カルシム、カリウム(緑の野菜)摂取です。
米国の100万人以上のメタ研究では、115/75 mmHgを基準として、収縮期が20 mmHg上がると又は拡張期が10 mmHg上がる毎に心血管疾患(心筋梗塞や脳梗塞)の死亡率が2倍になるということがわかっています**。
診察室で血圧が高くなる白衣高血圧の人の予後は、正常血圧の人の予後と変わらないことがわかっています。それとは逆に診察室では低く、普段高い人は「仮面高血圧」といわれ、正常血圧者より長期予後が悪くなるといわれています。
血圧を下げるためには、①運動(息の上がる運動)②血液量を下げる(減量、減塩) ③リラックスを心がけることが有用です。特に減量は大切で、適正体重にするだけで血圧が正常化する人がいます。
高血圧の定義は140/90 mmHg以上ですので、健康診断で高血圧を指摘され、①~③を半年程度行っても改善が見られない場合は薬物療法の適応になります。治療の目標(降圧目標)は,75歳未満で130 /80 mmHg(家庭血圧 125/75 mmHg)、75歳以上で135/85 mmHg (同130/80 mmHg)です***。
よく「一旦血圧の薬を飲み始めたら一生服用しないといけない」などと心配する人がいますが、米国の教科書には「80歳以上は治療目標の例外(possible exceptions totherapeutic target of <130/80 mmHg)」と書かれています。65歳以上では降圧薬による低血圧がめまいや失神の原因となるので、そのような時も中止します。
最近の降圧薬は副作用が少なくなっていますし、境界型の血圧では急に高くなることがあるので、高血圧の人は迷わず服用するようにしましょう。
以上です。
*エリクソンの「心理社会的発達理論」で提唱されている「8つの発達段階」参考
** Harrison’s Principles of Internal Medicine, 21st. ed.
***高血圧治療ガイドライン 2019
血圧は文字通り「血管にかかる圧力」です。血圧は血管の弾力性(硬さ)、血液量、心臓の収縮力で決まります。血圧120/70 mmHgと言えば、心臓が縮むとき時(収縮期)の圧力が120 mmHg、心臓が膨らんだ時(拡張期)の圧力が70 mmHgということです。mmHgとは水銀柱を上げる高さで、1気圧では760 mmでので、70 mmHgは0.1気圧ぐらいでしょうか。
血圧は年齢とともに高くなります。男性は女性と比較して血圧は高い傾向にありますが、女性は更年期(45‐55歳)で急に高くなるので注意が必要です。年齢と血圧の目安を表にまとめてみました*。

高血圧症の9割程度は「本態性高血圧(essential hypertension)」と呼ばれ、原因不明です。高血圧の原因疾患があるものを「2次性高血圧(secondery hypertension)」といい、腎臓病、ホルモン異常などがあります。若い女性で血圧が高い場合、甲状腺や副腎のホルモン異常(アルドステロン症)などがあり、ホルモンを調節する治療によって血圧が正常になります。
血管はゴムホースと同じで、使わないと硬くなります。運動しない人は血管が伸び縮みしないので硬くなります。メタボの人は血液量が多いので血管にかかる圧力が高くなります。また、緊張すると血管が縮むので、ストレスの多い人の血圧は高くなります。食事で気をつけることは減塩(6g以下)、カルシム、カリウム(緑の野菜)摂取です。
米国の100万人以上のメタ研究では、115/75 mmHgを基準として、収縮期が20 mmHg上がると又は拡張期が10 mmHg上がる毎に心血管疾患(心筋梗塞や脳梗塞)の死亡率が2倍になるということがわかっています**。
診察室で血圧が高くなる白衣高血圧の人の予後は、正常血圧の人の予後と変わらないことがわかっています。それとは逆に診察室では低く、普段高い人は「仮面高血圧」といわれ、正常血圧者より長期予後が悪くなるといわれています。
血圧を下げるためには、①運動(息の上がる運動)②血液量を下げる(減量、減塩) ③リラックスを心がけることが有用です。特に減量は大切で、適正体重にするだけで血圧が正常化する人がいます。
高血圧の定義は140/90 mmHg以上ですので、健康診断で高血圧を指摘され、①~③を半年程度行っても改善が見られない場合は薬物療法の適応になります。治療の目標(降圧目標)は,75歳未満で130 /80 mmHg(家庭血圧 125/75 mmHg)、75歳以上で135/85 mmHg (同130/80 mmHg)です***。
よく「一旦血圧の薬を飲み始めたら一生服用しないといけない」などと心配する人がいますが、米国の教科書には「80歳以上は治療目標の例外(possible exceptions totherapeutic target of <130/80 mmHg)」と書かれています。65歳以上では降圧薬による低血圧がめまいや失神の原因となるので、そのような時も中止します。
最近の降圧薬は副作用が少なくなっていますし、境界型の血圧では急に高くなることがあるので、高血圧の人は迷わず服用するようにしましょう。
以上です。
*エリクソンの「心理社会的発達理論」で提唱されている「8つの発達段階」参考
** Harrison’s Principles of Internal Medicine, 21st. ed.
***高血圧治療ガイドライン 2019
その55 咳の対処法
最近のニュースで、薬局から咳止め(鎮咳薬)をはじめ風邪薬の在庫が不足していることが報じらています。でもご安心ください。鎮咳薬は根本治療薬ではありません。今回のテーマは咳の対処法です。
咳は、気道内に入った異物を排出するための反射です。咳反射は、気管支粘膜が異物を感じた瞬間に、粘膜の知覚神経を通じて延髄に伝わり、横隔膜、肋間筋や腹筋を総動員して咳を出して異物を取り除こうとするのです。延髄は、大脳と脊髄の中間地点にあり、呼吸、嘔吐、嚥下、循環(心拍数)を司るセンターです。
市販されている鎮咳薬は、ほとんどが延髄の働きを弱めるための麻薬(コデイン、ヒドロコデイン)です。これらを長期的に服用すると眠気や便秘など副作用の他、薬を飲まないといられなくなる依存が形成されます。
また、気管支拡張目的で添加されているエフェドリンは、交感神経刺激剤(一種の興奮剤、血圧を上げ、心拍数を高める)ため、運動競技会で禁止薬物に指定されています。

令和5年2月8日付け薬生発0208第1号厚生労働省医薬・生活衛生局長通知により、「濫用等のおそれのある医薬品」の指定範囲が変更されました。
① ジヒドロコデイン (麻薬) ② メチルエフェドリン (興奮薬) ③ ブロモバレリル尿素 (鎮静薬)
これらを含む薬については、一人一個(一箱または一瓶)の販売に限定されています。ブロモバレリル尿素は前回の一口メモ(鎮痛薬の安全な使い方)でお伝えした通り、鎮痛薬に添加されることがある依存性の強い鎮静薬です。
病院で処方される咳止めにもジヒドロコデイン、メチルエフェドリンが含まれているものがあります。中にはブロモバレリル尿素も配合された最強の咳止め(カフコデN)もあります。
では、咳の根本治療は何でしょうか。下の表に示しましたように、治療法はいろいろありますが、鎮咳薬は全く含まれていません。当院では、咳が苦しくて眠れないような時に、寝る前だけ鎮咳薬を補助的に処方しています。

長引く咳の9割は①と②です。だらだらと鎮咳薬を使わずに根本治療(吸入ステロイド)を受けましょう。
以上です。
濫用等の恐れのある医薬品について(厚労省ホームページ)
https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/001062520.pdf
ドーピング対照薬検索
https://www.data-index.co.jp/medsearch/anti-doping/
咳は、気道内に入った異物を排出するための反射です。咳反射は、気管支粘膜が異物を感じた瞬間に、粘膜の知覚神経を通じて延髄に伝わり、横隔膜、肋間筋や腹筋を総動員して咳を出して異物を取り除こうとするのです。延髄は、大脳と脊髄の中間地点にあり、呼吸、嘔吐、嚥下、循環(心拍数)を司るセンターです。
市販されている鎮咳薬は、ほとんどが延髄の働きを弱めるための麻薬(コデイン、ヒドロコデイン)です。これらを長期的に服用すると眠気や便秘など副作用の他、薬を飲まないといられなくなる依存が形成されます。
また、気管支拡張目的で添加されているエフェドリンは、交感神経刺激剤(一種の興奮剤、血圧を上げ、心拍数を高める)ため、運動競技会で禁止薬物に指定されています。

令和5年2月8日付け薬生発0208第1号厚生労働省医薬・生活衛生局長通知により、「濫用等のおそれのある医薬品」の指定範囲が変更されました。
① ジヒドロコデイン (麻薬) ② メチルエフェドリン (興奮薬) ③ ブロモバレリル尿素 (鎮静薬)
これらを含む薬については、一人一個(一箱または一瓶)の販売に限定されています。ブロモバレリル尿素は前回の一口メモ(鎮痛薬の安全な使い方)でお伝えした通り、鎮痛薬に添加されることがある依存性の強い鎮静薬です。
病院で処方される咳止めにもジヒドロコデイン、メチルエフェドリンが含まれているものがあります。中にはブロモバレリル尿素も配合された最強の咳止め(カフコデN)もあります。
では、咳の根本治療は何でしょうか。下の表に示しましたように、治療法はいろいろありますが、鎮咳薬は全く含まれていません。当院では、咳が苦しくて眠れないような時に、寝る前だけ鎮咳薬を補助的に処方しています。

長引く咳の9割は①と②です。だらだらと鎮咳薬を使わずに根本治療(吸入ステロイド)を受けましょう。
以上です。
濫用等の恐れのある医薬品について(厚労省ホームページ)
https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/001062520.pdf
ドーピング対照薬検索
https://www.data-index.co.jp/medsearch/anti-doping/