その49 ストレスを跳ね返す力(レジリエンス)
昨年5月の健康一口メモで「5月病 spring fever」についてまとめました。
https://www.sannoclinic.jp/cafe/archives/art/00033.html
5月病の原因として「4月の環境変化への適応行動が、5月初旬の大型連休で緩んでしまう」こと、その他「日照時間増加、気温の上昇、変わりやすい天気、春の生命の息吹き」など、気象病の症状として感情や行動の変化が起こることを説明しました。医学的には適応障害と診断されます。
今回のテーマはストレスを跳ね返す力(レジリエンス)です。このように環境変化が起こった時に、適応障害を発症する人としない人がいるのは、両者の何が違うのでしょうか。
レジリエンスとは、economic resilience(経済の回復)、skin resilience(肌の弾力)などように「回復力」「弾力」などの意味で使われます。精神医学においては「レジリアンス」と表記され、決まった訳語はありませんが、ストレス要因への「抵抗力」や「対応力」の意味で用いられます。
「キャパ(capacity)が狭い」「キャパオーバー」などといいますが、レジリエンスの高い人はキャパが広いということになります。一般的に子供はレジリエンスが低く、年をとるごとにレジリエンスは高まってきます。一方で、単純な肉体疲労の回復は、年齢とともに低下していくことは言うまでもありません。レジリエンスは疲労を蓄積させない(器を大きくして、溜まったストレスをすぐに排出する)技です。
心理的柔軟性(psychological flexibility)1)という心理学用語もレジリエンスと同義語といえます。心理学者レビンによれば、心理的柔軟性は①変えられないものは受け入れる、②今自分がやるべきことに専念する、③人のせいにしない、④冷静に主張する、⑤自身を俯瞰する、というスタンスから生まれるといいます。
レジリエンスも心理的柔軟性も個人差はあるものの、生まれつき備わっているものではありません。成長とともに身につけていくスキルです。「私は体が硬い」という人は、柔軟体操を毎日行っていない人がほとんどです。レジリエンスを高めるためには、心理的柔軟性の5つのスタンスに沿って、自分の行動と思考様式を軌道修正する必要があります。
レジリエントな人は、ありふれたライフイベントや慢性的なストレッサーに順応したり、速やかに調節することができます(災い転じて福となすことができる、人間万事塞翁が馬を知っている、嬉しいときには自己を律し逆境においてもやるべきことができるetc)。ピンチはチャンスと考えられる人です。
一方で、米国の臨床心理学者ジュリアン・ロッター氏は「自己をコントロールする力が自己の内部にあるか外部にあるか(locus of control)2)」を個人の判断指標として提案しました。この指標が高いほど、自分本位で考え対処していこうとする傾向があるのに対して、低い場合は、他力本願的に対処しようとする傾向があるのです。
ここまで考えると、環境変化で体調を崩さないためには、常日頃から心の柔軟体操を行い、人に頼りすぎず、自分で考えて物事に対応することが大切になります。但し、疲労感が休息によって改善しないときは、無理をせず専門医に相談することが必要です。
季節の変わり目で体調崩しやすい時期ですが、こころと体の柔軟体操を日常生活の中に組み込んで、レジリエントな人(疲れない人)になりましょう。
以上です。
1) psychological flexibility; Levin, M. E. (2012) doi: 10.1016/j.beth.2012.05.003
2) locus of control; Rotter, Julian B (1966) doi: 10.1037/h0092976
https://www.sannoclinic.jp/cafe/archives/art/00033.html
5月病の原因として「4月の環境変化への適応行動が、5月初旬の大型連休で緩んでしまう」こと、その他「日照時間増加、気温の上昇、変わりやすい天気、春の生命の息吹き」など、気象病の症状として感情や行動の変化が起こることを説明しました。医学的には適応障害と診断されます。
今回のテーマはストレスを跳ね返す力(レジリエンス)です。このように環境変化が起こった時に、適応障害を発症する人としない人がいるのは、両者の何が違うのでしょうか。
レジリエンスとは、economic resilience(経済の回復)、skin resilience(肌の弾力)などように「回復力」「弾力」などの意味で使われます。精神医学においては「レジリアンス」と表記され、決まった訳語はありませんが、ストレス要因への「抵抗力」や「対応力」の意味で用いられます。
「キャパ(capacity)が狭い」「キャパオーバー」などといいますが、レジリエンスの高い人はキャパが広いということになります。一般的に子供はレジリエンスが低く、年をとるごとにレジリエンスは高まってきます。一方で、単純な肉体疲労の回復は、年齢とともに低下していくことは言うまでもありません。レジリエンスは疲労を蓄積させない(器を大きくして、溜まったストレスをすぐに排出する)技です。
心理的柔軟性(psychological flexibility)1)という心理学用語もレジリエンスと同義語といえます。心理学者レビンによれば、心理的柔軟性は①変えられないものは受け入れる、②今自分がやるべきことに専念する、③人のせいにしない、④冷静に主張する、⑤自身を俯瞰する、というスタンスから生まれるといいます。
レジリエンスも心理的柔軟性も個人差はあるものの、生まれつき備わっているものではありません。成長とともに身につけていくスキルです。「私は体が硬い」という人は、柔軟体操を毎日行っていない人がほとんどです。レジリエンスを高めるためには、心理的柔軟性の5つのスタンスに沿って、自分の行動と思考様式を軌道修正する必要があります。
レジリエントな人は、ありふれたライフイベントや慢性的なストレッサーに順応したり、速やかに調節することができます(災い転じて福となすことができる、人間万事塞翁が馬を知っている、嬉しいときには自己を律し逆境においてもやるべきことができるetc)。ピンチはチャンスと考えられる人です。
一方で、米国の臨床心理学者ジュリアン・ロッター氏は「自己をコントロールする力が自己の内部にあるか外部にあるか(locus of control)2)」を個人の判断指標として提案しました。この指標が高いほど、自分本位で考え対処していこうとする傾向があるのに対して、低い場合は、他力本願的に対処しようとする傾向があるのです。
ここまで考えると、環境変化で体調を崩さないためには、常日頃から心の柔軟体操を行い、人に頼りすぎず、自分で考えて物事に対応することが大切になります。但し、疲労感が休息によって改善しないときは、無理をせず専門医に相談することが必要です。
季節の変わり目で体調崩しやすい時期ですが、こころと体の柔軟体操を日常生活の中に組み込んで、レジリエントな人(疲れない人)になりましょう。
以上です。
1) psychological flexibility; Levin, M. E. (2012) doi: 10.1016/j.beth.2012.05.003
2) locus of control; Rotter, Julian B (1966) doi: 10.1037/h0092976
その48 頭を空っぽにする方法(くらげ体操)
嫌なこと心配なことがあると、そのことで頭が一杯になって、仕事に集中できなくことがあります。夜寝る時にもいろいろなことが頭に浮んで、なかなか寝付けないこともあると思います。そのような時に頭を空っぽにする方法についてご紹介します。
まず姿勢を正して立ちます。
次に足の裏で地面をぎゅっと掴むように力を入れます。
お腹と肛門を引き締めます。
そして、両腕が肩から紐でぶら下がっているように(肩が脱臼したように)完全に脱力します。この姿勢を「上虚下実」といい、人間の体と心が最も安定する形です。この形をとれば 、立ったまま眠れるともいいます。書道、華道、茶道や剣道、柔道、合気道など武道で最も重視される姿勢です。その姿勢ができたら、目を閉じて、まるでくらげが海の中を漂っている情景を想像します。
Wikipedaによれば「くらげは浮遊生活をする刺胞動物」とあります。刺胞動物は筋肉をもたず、脳も心臓もありません(二胚葉性)。海流に乗って海中を漂い、自分の思う方向へは進めません。
ミズクラゲ(すみだ水族館)https://www.sumida-aquarium.com/column/details/652.html
上虚下実の姿勢のままゆっくり長く息を吐いて、呼吸の数を頭の中で数えます(数息観)。そして自分が筋肉も脳もないくらげになって、海の中を浮遊しているイメージを浮かべるのです。人間もくらげと同様、自分の思い通りにことを進める事はできません。見えない大きな自然の力に流されているのです。それの力に抗わないよう、上半身の力を抜いて流れに身を任せます。
デスクワーク中もその体の形を保って、ゆっくり鼻から息を吐いていると(音をさせないように)、疲れ方が全然違ってきます。仕事中は「上実下虚」になっている場合がほとんどなので、上半身の血管が収縮し酸素不足になるため、肩こり、めまい、耳鳴り、頭痛などの原因となります。
夜眠る時は数息観だけでも試してみると、頭が空っぽになって知らないうちに眠っています。仕事中に座っていてもできます。私も仕事の合間や電車の中でやっていますw。
すみだ水族館では2020年7月より「クラゲエリア」がオープンしました。お近くの方はぜひ足を運んでみてください。癒やされると思いますよ。
以上です。
まず姿勢を正して立ちます。
次に足の裏で地面をぎゅっと掴むように力を入れます。
お腹と肛門を引き締めます。
そして、両腕が肩から紐でぶら下がっているように(肩が脱臼したように)完全に脱力します。この姿勢を「上虚下実」といい、人間の体と心が最も安定する形です。この形をとれば 、立ったまま眠れるともいいます。書道、華道、茶道や剣道、柔道、合気道など武道で最も重視される姿勢です。その姿勢ができたら、目を閉じて、まるでくらげが海の中を漂っている情景を想像します。
Wikipedaによれば「くらげは浮遊生活をする刺胞動物」とあります。刺胞動物は筋肉をもたず、脳も心臓もありません(二胚葉性)。海流に乗って海中を漂い、自分の思う方向へは進めません。
ミズクラゲ(すみだ水族館)https://www.sumida-aquarium.com/column/details/652.html
上虚下実の姿勢のままゆっくり長く息を吐いて、呼吸の数を頭の中で数えます(数息観)。そして自分が筋肉も脳もないくらげになって、海の中を浮遊しているイメージを浮かべるのです。人間もくらげと同様、自分の思い通りにことを進める事はできません。見えない大きな自然の力に流されているのです。それの力に抗わないよう、上半身の力を抜いて流れに身を任せます。
デスクワーク中もその体の形を保って、ゆっくり鼻から息を吐いていると(音をさせないように)、疲れ方が全然違ってきます。仕事中は「上実下虚」になっている場合がほとんどなので、上半身の血管が収縮し酸素不足になるため、肩こり、めまい、耳鳴り、頭痛などの原因となります。
夜眠る時は数息観だけでも試してみると、頭が空っぽになって知らないうちに眠っています。仕事中に座っていてもできます。私も仕事の合間や電車の中でやっていますw。
すみだ水族館では2020年7月より「クラゲエリア」がオープンしました。お近くの方はぜひ足を運んでみてください。癒やされると思いますよ。
以上です。
その47 花粉症対策のツボ
今年は花粉症の症状が強いと言われてますので、取り急ぎ作成しました。
ツボ1 アレルギーとは何?
白血球は外敵から身を守る働き(免疫)をしていますが、免疫が必要以上に働いた結果出現する症状をアレルギーといいます。アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、アレルギー性気管支炎、アレルギー性血管炎などの病名がつきます。
アレルギー体質の人は白血球が過剰に働きすぎているため、皮膚や粘膜が腫れやすい特徴があります。もっと過剰に働くと自分の組織を攻撃して、リウマチなどの自己免疫疾患となります。アレルギー体質の人は、ワクチン接種や風邪の後の反応が強く出ます。
免疫には自然免疫(innate immunity)と獲得免疫(acquired immunity)があり、前者は生まれつき備わっているもの、後者は生後に形成されるものです。アレルギーは獲得免疫が過剰に働く場合に起こります。一番激しいものは、アナフィラキシーといい、気管支粘膜が腫れて窒息死します。
ツボ2 アレルギー性鼻炎の分類を知ろう
外的要因(特定のアレルゲン(アレルギーの元)がある場合)
通年アレルギー(ハウスダスト)
季節性アレルギー(春:スギ(2-4月)ヒノキ(4−5)、秋:イネ(6−11)ブタクサ(9-11))
内的要因(特定のアレルゲンはないが、体質的に炎症を起こしやすい)
非アトピー性アレルギー(ストレス、疲労、寒冷刺激で症状が出る)
耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会 ガイドライン2021
ツボ3 アレルギー発症のメカニズム
外的要因にせよ内的要因にせよ、最終的には白血球(肥満細胞)がヒスタミンやロイコトリエンなどの血管拡張物質を放出した結果、粘膜や皮膚が腫れることで様々な症状を起こします。粘膜の腫れ(じんましん、鼻詰まり、息苦しさ)、知覚過敏(目や喉のかゆみ、くしゃみ、咳、腹痛)、粘液増加(涙、鼻水、痰、下痢)などが主な症状です。
ツボ4 アレルギーの治療原則
白血球の全体的な働きを弱めるステロイドや炎症物質(ヒスタミン、ロイコトリエン)をブロックする薬(抗ヒスタミン薬、抗ロイコトリエン薬)を使います。薬物療法以外では、アレルゲンを避けることはもちろんですが、十分な睡眠、適度な運動そして白血球を騒がせないリラクゼーションが大切です。
ツボ5 病院の方が安くてよく効くものがある
市販されている薬を病院でもらうと、眠くならない第2世代抗ヒスタミンの場合、
市販 クラリチン(1ヶ月 2500~4000円)
処方 ロラタジン:クラリチンのジェネリック(1ヶ月 保険適応で19.2*30*.3=172円)
と、値段が10倍以上違います(初診料は約1000円です)。
また、市販薬にはありませんが処方薬には安くて有効な薬があります。
抗ロイコトリエン薬 (モンテルカスト 1錠20円 保険適応で月に180円)
ツボ6 市販の点眼薬は使わない、処方薬でも連用しないこと
市販 眠くなる成分や血管収縮薬、メントールなど刺激物が含まれています。その上高い。市販薬は10ml前後で1500円程度します。
処方 ステロイド点眼薬 花粉症で目が充血したりかゆいときは、抗炎症作用を持つステロイドを1−2
日だけですぐに治ります。しかも安い。フルメトロン0.02%点眼 5mlで155円(3割負担で50円)。
ツボ7 市販の点鼻薬は使わない、処方薬を連用すること
2019年からスイッチOTC(over-the-counter市販薬のこと)としてステロイド点鼻薬が登場していますが、安全性に配慮しているためかステロイドの量が少なく、効果は限定的です。また抗ヒスタミン薬や血管収縮薬などが追加されているため、眠くなったり粘膜の線維化をきたすことがありおすすめできません。
ステロイド点鼻は点眼薬と違って予防的に毎日使用します。即効性はありません。使い始めてから1週間ぐらいで、粘膜の炎症が治まりスッキリしてきます。市販薬の中には「すぐに効く」と謳っているものがありますが、血管収縮薬を使用しているため、粘膜を痛める原因となります。
処方 アラミスト(3割負担で1ヶ月分1050円)
ツボ8 咳が長引くとき咳止めは効かない、吸入すること
気管支の炎症を抑えるため、内服薬とステロイド吸入が必要です。放っておくと数ヶ月以上症状が続き、肺炎をきたすことがあります。
処方 アズマネックス (3割負担で620円)
以上です
ツボ1 アレルギーとは何?
白血球は外敵から身を守る働き(免疫)をしていますが、免疫が必要以上に働いた結果出現する症状をアレルギーといいます。アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、アレルギー性気管支炎、アレルギー性血管炎などの病名がつきます。
アレルギー体質の人は白血球が過剰に働きすぎているため、皮膚や粘膜が腫れやすい特徴があります。もっと過剰に働くと自分の組織を攻撃して、リウマチなどの自己免疫疾患となります。アレルギー体質の人は、ワクチン接種や風邪の後の反応が強く出ます。
免疫には自然免疫(innate immunity)と獲得免疫(acquired immunity)があり、前者は生まれつき備わっているもの、後者は生後に形成されるものです。アレルギーは獲得免疫が過剰に働く場合に起こります。一番激しいものは、アナフィラキシーといい、気管支粘膜が腫れて窒息死します。
ツボ2 アレルギー性鼻炎の分類を知ろう
外的要因(特定のアレルゲン(アレルギーの元)がある場合)
通年アレルギー(ハウスダスト)
季節性アレルギー(春:スギ(2-4月)ヒノキ(4−5)、秋:イネ(6−11)ブタクサ(9-11))
内的要因(特定のアレルゲンはないが、体質的に炎症を起こしやすい)
非アトピー性アレルギー(ストレス、疲労、寒冷刺激で症状が出る)
耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会 ガイドライン2021
ツボ3 アレルギー発症のメカニズム
外的要因にせよ内的要因にせよ、最終的には白血球(肥満細胞)がヒスタミンやロイコトリエンなどの血管拡張物質を放出した結果、粘膜や皮膚が腫れることで様々な症状を起こします。粘膜の腫れ(じんましん、鼻詰まり、息苦しさ)、知覚過敏(目や喉のかゆみ、くしゃみ、咳、腹痛)、粘液増加(涙、鼻水、痰、下痢)などが主な症状です。
ツボ4 アレルギーの治療原則
白血球の全体的な働きを弱めるステロイドや炎症物質(ヒスタミン、ロイコトリエン)をブロックする薬(抗ヒスタミン薬、抗ロイコトリエン薬)を使います。薬物療法以外では、アレルゲンを避けることはもちろんですが、十分な睡眠、適度な運動そして白血球を騒がせないリラクゼーションが大切です。
ツボ5 病院の方が安くてよく効くものがある
市販されている薬を病院でもらうと、眠くならない第2世代抗ヒスタミンの場合、
市販 クラリチン(1ヶ月 2500~4000円)
処方 ロラタジン:クラリチンのジェネリック(1ヶ月 保険適応で19.2*30*.3=172円)
と、値段が10倍以上違います(初診料は約1000円です)。
また、市販薬にはありませんが処方薬には安くて有効な薬があります。
抗ロイコトリエン薬 (モンテルカスト 1錠20円 保険適応で月に180円)
ツボ6 市販の点眼薬は使わない、処方薬でも連用しないこと
市販 眠くなる成分や血管収縮薬、メントールなど刺激物が含まれています。その上高い。市販薬は10ml前後で1500円程度します。
処方 ステロイド点眼薬 花粉症で目が充血したりかゆいときは、抗炎症作用を持つステロイドを1−2
日だけですぐに治ります。しかも安い。フルメトロン0.02%点眼 5mlで155円(3割負担で50円)。
ツボ7 市販の点鼻薬は使わない、処方薬を連用すること
2019年からスイッチOTC(over-the-counter市販薬のこと)としてステロイド点鼻薬が登場していますが、安全性に配慮しているためかステロイドの量が少なく、効果は限定的です。また抗ヒスタミン薬や血管収縮薬などが追加されているため、眠くなったり粘膜の線維化をきたすことがありおすすめできません。
ステロイド点鼻は点眼薬と違って予防的に毎日使用します。即効性はありません。使い始めてから1週間ぐらいで、粘膜の炎症が治まりスッキリしてきます。市販薬の中には「すぐに効く」と謳っているものがありますが、血管収縮薬を使用しているため、粘膜を痛める原因となります。
処方 アラミスト(3割負担で1ヶ月分1050円)
ツボ8 咳が長引くとき咳止めは効かない、吸入すること
気管支の炎症を抑えるため、内服薬とステロイド吸入が必要です。放っておくと数ヶ月以上症状が続き、肺炎をきたすことがあります。
処方 アズマネックス (3割負担で620円)
以上です
その46 ストレス性胃炎(機能性胃腸障害)
胃の調子が悪い状態が半年以上続き、必要な検査で異常を認めないときは、機能性胃腸障害(いわゆるストレス性胃炎)と診断されます。つまりは胃の形態は正常(胃カメラではとても綺麗と言われます)ですが、胃の働きが悪いということです。症状としては、胃の痛み、腹部膨満感(お腹が貼る感じ)、悪心(吐きそうな感じ)、胃不全麻痺(すぐにお腹が一杯になったり、ゲップが出る)などがあります。
機能不全の原因は自律神経の緊張と考えられてします。緊張時は交感神経からアドレナリンが放出され、胃腸は収縮します。非緊張状態では副交感神経末端からアセチルコリンが放出され、胃腸は弛緩してよく動くようになります。このようにヒトの臓器は、車のアクセル(交感神経)とブレーキ(副交感神経)のように二重支配されています。
https://www.cghjournal.org/article/S1542-3565%2819%2930640-8/fulltext
上図のように、胃不全麻痺(gastroparesis)という概念があります。胃の蠕動運動が低下すると、胃から食物などが排出されるのが遅くなります。蠕動は副交感神経刺激で活発になりますが、緊張状態では低下します。女性では男性に比べ、生まれつき蠕動は弱く、特に月経前に黄体ホルモン値が上昇すると、蠕動低下は著しくなります。
精神的ストレスが強い状態では、胃の蠕動が低下するだけでなく、胃全体が収縮して硬くなります。そのため、食べ物を見たり歯を磨こうとしたりするだけで、吐き気を催したり痛みを感じたりすることがあります。そのような状態が続くと体重が減り、疲れやすくなったり意欲が低下したりします。
胃を弛緩させ蠕動を促進する方法(健胃法)
1)腹式呼吸
2)リラックス(瞑想、ヨガ、坐禅など)
3)運動、体操、ストレッチ
4)アルコール、糖分、カロリーを控える
5)お腹のマッサージ
などがあります。特に有効なのは「お腹を凹ませる(draw-in exercises)」です。これは仕事中でも電車の中でも、その気になればいつでもできる運動です。腹筋も鍛えられます。忙しくて運動する暇がないという方にぜひお勧めします。
行動科学の研究によるとという消化管と脳の密接な関係が明らかになっており、消化管は第二の脳と言われています。お腹の調子が悪いと不安になり、不安・緊張が高まるとお腹の調子が悪くなります。脳と消化管は迷走神経という神経で繋がっており、それぞれの臓器の情報交換をしています。
胃腸が弱い方は「健胃法」をぜひお試しください。
以上です。
機能不全の原因は自律神経の緊張と考えられてします。緊張時は交感神経からアドレナリンが放出され、胃腸は収縮します。非緊張状態では副交感神経末端からアセチルコリンが放出され、胃腸は弛緩してよく動くようになります。このようにヒトの臓器は、車のアクセル(交感神経)とブレーキ(副交感神経)のように二重支配されています。
https://www.cghjournal.org/article/S1542-3565%2819%2930640-8/fulltext
上図のように、胃不全麻痺(gastroparesis)という概念があります。胃の蠕動運動が低下すると、胃から食物などが排出されるのが遅くなります。蠕動は副交感神経刺激で活発になりますが、緊張状態では低下します。女性では男性に比べ、生まれつき蠕動は弱く、特に月経前に黄体ホルモン値が上昇すると、蠕動低下は著しくなります。
精神的ストレスが強い状態では、胃の蠕動が低下するだけでなく、胃全体が収縮して硬くなります。そのため、食べ物を見たり歯を磨こうとしたりするだけで、吐き気を催したり痛みを感じたりすることがあります。そのような状態が続くと体重が減り、疲れやすくなったり意欲が低下したりします。
胃を弛緩させ蠕動を促進する方法(健胃法)
1)腹式呼吸
2)リラックス(瞑想、ヨガ、坐禅など)
3)運動、体操、ストレッチ
4)アルコール、糖分、カロリーを控える
5)お腹のマッサージ
などがあります。特に有効なのは「お腹を凹ませる(draw-in exercises)」です。これは仕事中でも電車の中でも、その気になればいつでもできる運動です。腹筋も鍛えられます。忙しくて運動する暇がないという方にぜひお勧めします。
行動科学の研究によるとという消化管と脳の密接な関係が明らかになっており、消化管は第二の脳と言われています。お腹の調子が悪いと不安になり、不安・緊張が高まるとお腹の調子が悪くなります。脳と消化管は迷走神経という神経で繋がっており、それぞれの臓器の情報交換をしています。
胃腸が弱い方は「健胃法」をぜひお試しください。
以上です。
その45 日本式ウェルビーイング
今回は新聞や報道で盛んに登場する「ウェルビーイング」について考えてみましょう。
1948年に設立された世界保健機関(WHO)の憲章のトップには
Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.
「健康とは、病気ではないとか弱っていないと言うことではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、全てが満たされた状態にあること」と定義されました。ここでは「健康=ウェルビーイング」と言えるでしょう。
一方で、2017年世界医師会総会における医の倫理規定で「患者の健康とウェルビーイングを第一とする」と宣言されました(ジュネーブ宣言)。ここでの健康とは「肉体的・精神的疾患がない」、ウェルビーイング(狭義)とは「疾患があったとしても患者の心が満たされた状態」を示します。言い換えれば「医師は病気を治すだけではなく、患者の心に寄り添うこと」です。
ウェルビーイングは直訳どおり「良い状態でいる」ということですが、さらに客観的ウェルビーイングと主観的ウェルビーイングに分けられます。前者は、食事、教育、衛生環境、信用、地位などが得られている状態、後者は個人の満足度、幸福度、安心感などが指標になります。
前述のとおり、ウェルビーイングという言葉はWHO誕生とともに登場していますが、20世紀終わりから特に注目されるようになりました。1999年米国心理学会の会頭挨拶において、ペンシルバニア大学のMartin E. P. Seligmanは、ポジティブ心理学の推進を提唱しました。これまでの心理学は「不安、恐怖、怒り、落ち込み」など陰性感情の診断および治療が研究対象になっていましたが「勇気、希望、達成感、楽観性」などの陽性感情に焦点を当てたのがポジティブ心理学です。
Seligmanは学習性無力感(learned helplessness)を研究していました。人や動物は、長期間ストレスフルな環境に置かれると、行動する前に「何をしても無駄だ」と考えて、回避行動をとらなくなることがあります。そこで、敢えて行動を取ることがモチベーションを高めることにつながると考えたのです。
人は以下の5つの要素を満たしていると幸せである、とするもので、頭文字をとって「PERMA」と呼ばれています。
Positive Emotion(ポジティブな感情)
Engagement(何かへの没頭)
Relationship(人との良い関係)
Meaning and Purpose(人生の意義や目的)
Achievement/ Accomplish(達成)
具体的には、ギャロップ社が定義した5つの要素があります。
Career Wellbeing:仕事に限らず、自分で選択したキャリアの幸せ
Social Wellbeing:どれだけ人と良い関係を築けるか
Financial Wellbeing:経済的に満足できているか
Physical Wellbeing:心身ともに健康であるか
Community Wellbeing:地域社会とのつながっているか
などといろいろと並べられています。
精神科治療においてBook Review Dialog という手法があります。患者が選んだ本をもとに医師と対話をするものです。先日私はある患者から一冊の本を紹介されました。その本によれば「ウェルビーイングの定義は国や文化、個人によって異なる。日本人に適したウェルビーイングの考え方は、幸せのために何かをする(well-doing)必要はなく、ただいるだけ(well-being)でいい」という内容です。「自分で選択して、決定することの積み重ねが幸せにつながる。もっと上を目指すのではなく、毎日を積み重ね奥を極めよう」という考え方に溜飲が下がる思いがしました。
昨日NHKテレビで、春場所優勝を飾った三兄弟力士の若隆景が「上を目指している時は全然だめでした。今場所は毎日の稽古に専念しました」と話していました。まさにこれが「日本式ウェルビーイング」だと思いました。
日々の診療においても、患者さん一人ひとりのウェルビーイングを意識して、病気を治すだけでなく、幸せな気持ちでクリニックを後にしてもらうように心がけています。
以上です。
参考図書
むかしむかしあるところにウェルビーイングがありました: 日本文化から読み解く幸せのカタチ (2022) 石川善樹/吉田尚記
1948年に設立された世界保健機関(WHO)の憲章のトップには
Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.
「健康とは、病気ではないとか弱っていないと言うことではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、全てが満たされた状態にあること」と定義されました。ここでは「健康=ウェルビーイング」と言えるでしょう。
一方で、2017年世界医師会総会における医の倫理規定で「患者の健康とウェルビーイングを第一とする」と宣言されました(ジュネーブ宣言)。ここでの健康とは「肉体的・精神的疾患がない」、ウェルビーイング(狭義)とは「疾患があったとしても患者の心が満たされた状態」を示します。言い換えれば「医師は病気を治すだけではなく、患者の心に寄り添うこと」です。
ウェルビーイングは直訳どおり「良い状態でいる」ということですが、さらに客観的ウェルビーイングと主観的ウェルビーイングに分けられます。前者は、食事、教育、衛生環境、信用、地位などが得られている状態、後者は個人の満足度、幸福度、安心感などが指標になります。
前述のとおり、ウェルビーイングという言葉はWHO誕生とともに登場していますが、20世紀終わりから特に注目されるようになりました。1999年米国心理学会の会頭挨拶において、ペンシルバニア大学のMartin E. P. Seligmanは、ポジティブ心理学の推進を提唱しました。これまでの心理学は「不安、恐怖、怒り、落ち込み」など陰性感情の診断および治療が研究対象になっていましたが「勇気、希望、達成感、楽観性」などの陽性感情に焦点を当てたのがポジティブ心理学です。
Seligmanは学習性無力感(learned helplessness)を研究していました。人や動物は、長期間ストレスフルな環境に置かれると、行動する前に「何をしても無駄だ」と考えて、回避行動をとらなくなることがあります。そこで、敢えて行動を取ることがモチベーションを高めることにつながると考えたのです。
人は以下の5つの要素を満たしていると幸せである、とするもので、頭文字をとって「PERMA」と呼ばれています。
Positive Emotion(ポジティブな感情)
Engagement(何かへの没頭)
Relationship(人との良い関係)
Meaning and Purpose(人生の意義や目的)
Achievement/ Accomplish(達成)
具体的には、ギャロップ社が定義した5つの要素があります。
Career Wellbeing:仕事に限らず、自分で選択したキャリアの幸せ
Social Wellbeing:どれだけ人と良い関係を築けるか
Financial Wellbeing:経済的に満足できているか
Physical Wellbeing:心身ともに健康であるか
Community Wellbeing:地域社会とのつながっているか
などといろいろと並べられています。
精神科治療においてBook Review Dialog という手法があります。患者が選んだ本をもとに医師と対話をするものです。先日私はある患者から一冊の本を紹介されました。その本によれば「ウェルビーイングの定義は国や文化、個人によって異なる。日本人に適したウェルビーイングの考え方は、幸せのために何かをする(well-doing)必要はなく、ただいるだけ(well-being)でいい」という内容です。「自分で選択して、決定することの積み重ねが幸せにつながる。もっと上を目指すのではなく、毎日を積み重ね奥を極めよう」という考え方に溜飲が下がる思いがしました。
昨日NHKテレビで、春場所優勝を飾った三兄弟力士の若隆景が「上を目指している時は全然だめでした。今場所は毎日の稽古に専念しました」と話していました。まさにこれが「日本式ウェルビーイング」だと思いました。
日々の診療においても、患者さん一人ひとりのウェルビーイングを意識して、病気を治すだけでなく、幸せな気持ちでクリニックを後にしてもらうように心がけています。
以上です。
参考図書
むかしむかしあるところにウェルビーイングがありました: 日本文化から読み解く幸せのカタチ (2022) 石川善樹/吉田尚記